見出し画像

第233号(2023年8月21日)もし沢(もし毛沢東がウクライナ軍を指揮したら)


【今週のニュース】米国のイラン関与政策とロシアへのドローン供与問題

『ファイナンシャル・タイムズ』によると、米国はイランに対し、ロシアへのドローン供与を取りやめるよう迫っている。これはイランが拘束しているイラン系米国市民を刑務所から自宅軟禁へと移すための交渉と並行して行われているといい、バイデン政権の対イラン関係改善政策と一体のものであるようだ。

 ちなみにイランとロシアの間では最近、何かと隙間風が目立つ(以下参照)。米国のイランに対する関与姿勢は、その原因と結果双方の性質を持つものと見ることができるだろう。いずれにしても、これでイランが本当にドローン供与を手控えるならば、ロシアとしては都市空襲の「弾」を他に求めねばならないことになる。

【インサイト】もし沢(もし毛沢東がウクライナ軍を指揮したら)

「魔法の杖はない」

 ウクライナ軍による南部正面での反転攻勢は、依然として難航しています。ヴェリカ・ノヴォシルカ正面ではウクライナ軍がウロジャイネをほぼ奪還し、オリヒウ正面でもロボチネ周辺で激しい構成が続くなど主導権は取れていますが、どちらにおいても主陣地帯に取り付けているわけではない。この先、秋には泥濘が始まることを考えると残された時間もあまりないと思われます(ただし、今年の異常気象が泥濘の訪れに何らかの影響を与える可能性はある)。
 反転攻勢の難航については本メルマガでも幾度となく取り上げていますが、作戦の方針自体をめぐって米国とウクライナには見解の齟齬があったようだと『ファイナンシャル・タイムス』は報じています。米国はすべての戦力を南部戦線に集中させるよう勧告したのに対し、ウクライナは東部のバフムト戦線にかなりの戦力を割いたことがそれです。

 ウクライナ側が集中を嫌った理由は明確にされていませんが、記事の示唆するところによると一点突破作戦はかなりの犠牲を伴うため、多正面からの攻撃でロシア軍の対応を分散させようとしたということのなのでしょう。
 また、この記事の中では、米国内でウクライナ支援の先行きに対する悲観論と倦怠感がかなり広がっていることが紹介されており、いずれにしてもウクライナにとってはかなり厳しい状況が続くことが予感されます。そこで重要になるのがウクライナへの軍事援助強化ですが、記事中でサミュエル・チャラップが述べるように「魔法の杖はない」。重要なのは、戦争が長引く中でもウクライナ軍の装備・訓練・運用ドクトリン等を地道に強化していくほかないということになるでしょう(チャラップの持論からして、彼はそうは結論しないでしょうが)。

毛沢東がウクライナ軍を指揮したら

 優勢な敵に対してとにかく戦場で負けない期間を引き延ばし、その間に正規軍を強化するというアプローチは、毛沢東の遊撃戦理論を想起させます。遊撃戦理論なので遊撃(ゲリラ戦)が重視されていることはそうなのですが、実際に彼の論文「抗日遊撃戦争の諸問題」を読んでみると「ゲリラだけでは絶対に日本軍に勝てないので、安全な後背地を作って強力な正規軍を建設しないとダメだ」ということが繰り返し述べられているのですね。この点は初めて読んだとき、非常に新鮮でした。
 正面戦力で劣勢の戦いを続けながら強力な正規軍を建設・再編するという一見両立不可能な難題をなんとか実現しようとしたのが毛沢東の遊撃戦理論だったのではないか、というのが毛沢東理論の私なりの解釈です。
 また、遊撃戦のあり方についても、できれば兵士として遊撃隊に加わってくれるのがありがたいのだが、それができなければ食料や金を援助してくれるとか、何なら日本軍に居場所を言わないでいてくれるだけでもいい、という具合で、人民の心を掌握することの重要性がこの論文では繰り返し説かれています(それ故に以下の本では、遊撃戦理論に関する論文だけでなく延安での文芸座談会なるプロパガンダ従事者向け訓話みたいなものも収められている)。

ここから先は

4,283字 / 2画像

¥ 300

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?