第287号(2024年12月2日) ロシアによるウクライナへの弾道ミサイル攻撃 新型ミサイル「オレシュニク」とは何か
【インサイト】ロシアによるウクライナへの弾道ミサイル攻撃 新型ミサイル「オレシュニク」とは何か
謎の新型弾道ミサイル「オレシュニク」
10月21日、ロシアは新型弾道ミサイルを使用してウクライナ中部の工業都市ドニプロを攻撃しました。実はこの前日、ウクライナでは「ロシアがRS-26ルベーシュICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射準備をカプスティン・ヤール実験場で進めている」という未確認報道が出回っています。最初はデマかと思ったのですが、在キーウ米国大使館が一時業務を停止するなどしたため、ちょっときな臭い雰囲気になっていました。
翌日には実際に弾道ミサイル攻撃が起きました。ウクライナ空軍は当初、これをロシアのICBMと発表し、ゼレンシキー大統領も「ICBMだ」と発言。前日の情報から考え合わせると、ルベーシュを撃ったのだろうと当然のように考えられました。
ではルベーシュとは何なのか。広く認識されているところによると、このミサイルはRS-24ヤルスのステージを一段分取り払って小型化したミサイルとされています。とすると大幅に射程が短くなってINF(中距離核戦力)全廃条約(2019年失効)に違反する可能性が出てきますが、ロシアはこのミサイルを一度だけ5800kmの距離で飛行させることで「小型ICBMだからセーフ」という論法をとってきました。INF条約上は射程5500km以上飛行するミサイルはICBMなので、一度その能力を実証した以上はICBMなのだということです。
実際には、RS-26の発射試験はカプスティン・ヤール(アストラハン州)からサリシャガン射爆場(カザフスタン)に向けて実施されることが多く、この場合の射程大体2000kmでした。とすると、前述した5800kmの飛行試験というのはよほど軽いものを積んで行われた例外的なものであり、実際にはIRBMないしMRBM(準中距離弾道ミサイル)なのでは?という疑惑が当然のように浮かびます。
ただ、米国としては一度5500km以上で飛ばしてしまったものをことさらに非難もできませんし、2018年にはルベーシュの開発自体が中止されたこともあって、最近の国務省軍縮・軍備管理履行報告書でも言及されない状況が続いてきました。どちらかというと焦点は9M729(SS-C-8)地上発射巡航ミサイルと非戦略核兵器(NSNW)であったわけです。
「オシーナ」?「ケードル」?
10月21日の弾道ミサイルの発射に話を戻すと、翌日以降にはルベーシュの名は急速に聞かれなくなっていきました。ウクライナ自身、ルベーシュの名前を引っ込め、ロシアが撃ったのは次期ICBMとして開発されていた「ケードル」を元にしたミサイルだったと言い出しています。
ロシアが現在配備を進めているRS-24ヤルスに代わる新型ICBMを開発していることは、ロシア側自身からも度々言及されてきました。2021年にカラカエフ戦略ロケット部隊(RVSN)司令官がロシア軍の機関紙『赤い星』に語ったところによると、これは移動式ICBMとして開発されていたようで、とすると1990-2000年代にかけて配備されたRS-12M2トーポリ-Mや、将来的にはヤルスの初期配備分などを代替するのでしょう。
では、その新型ICBMとはいかなるものか。2019年には、「オシーナ-RV」というプロジェクト名で15P182という新型ICBMの開発がヤルス(15P180/181)の後継として開発されていることが公開文書分析によって知られていました。
これによると、オシーナ-RVプロジェクトで開発される15P182は主契約者がモスクワ熱力学研究所(MIT)とされています(MITはトーポリ、トーポリ-M、ヤルスといった固体燃料ICBMの開発を担ってきた企業ですから、ヤルスの後継としては自然な選択でしょう(つまり開発中の液体燃料式重ICBMであるRS-28サルマートとは別物)。ただ、公開された仕様書では15P182の試験段階では既存のサイロ・システムを使用して飛行試験を行うとされており、この点は「移動式」だというカラカエフの発言とは矛盾します。他方、せっかく固体燃料式ICBMを開発するのに移動式バージョンを作らないというのも不自然な話で、おそらく最終的には移動式も作られることになっていた(または実戦配備型は移動式のみになる)ということだったのではないかと思います。
ということは、オシーナ-RVプロジェクトで開発されていたミサイル・システム自体の名称はケードルだったのではないか、という推測が成り立ちます。実際、2021年にTASS通信が報じたところでは、ケードルは固体燃料式で道路移動型だけでなくサイロ発射バージョンもあり、2023-24年に試作設計作業(OKR)に入るとされていました。ロシア式のR&D概念ではまず基礎的な科学研究作業(NIR)があり、それからOKRに入るとされていますから、この段階では既にNIRは進んでいたと考えられます(なお、NIRとOKRは合わせてNIOKRと呼ばれる)。
さらにウクライナ国防省情報総局(GUR)は、ケードルの開発はMITを中心として行われ、2023年と2024年に「試験」(いわゆる飛行試験か、サイロから飛び出させるだけのポップアップ試験であったのかは明らかでない)がカプスティン・ヤールの国家第4諸軍種中央実験場で行われたと最近になって明らかにしました。
カプスティン・ヤールといえば今回のミサイル攻撃の発射地点とされていますから、この点からしてもオシーナ-RVプロジェクトで開発されたケードルが使われたという見方が成り立つように思われます。
では「オレシュニク」とは?
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