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第89号(2020年6月29日) 米国務省の軍備管理遵守報告書と米中露核軍縮の今後
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【レビュー】米国務省の軍備管理遵守報告書と米中露核軍縮の今後
本メルマガ第80号(2020年4月20日)では米国務省軍備管理・検証・遵守局の年次報告書2020年度版の内容を紹介しました。
この際紹介したように、同報告書は毎年春に要約版を公表し、夏頃により詳細な機密解除部分を含むという二段構えの公表方式を採用しています。今年はこのサイクルがやや早まったようで、早くも詳細版が出てきました。そこで今回は、前回の要約版では言及されなかった部分を紹介していきましょう。
ちなみにこの詳細版ではロシアの合計9項目にわたって指摘されており、過去最多とのことです。一度で紹介しきるのは無理なので、何回かに分けることにして、今回はINF条約、新START、大統領核イニシアチブ(PNI)の三つをとりあげましょう。
2019年度版との差分はテキスト比較ツール difff《デュフフ》で抽出し、翻訳はAI翻訳サービスDeepLを使用して手直しを加えました。
第二部:他国の核問題に関する軍備管理、不拡散、軍縮協定及び約束の遵守及び遵守
アメリカ合衆国とソビエト社会主義共和国連合との間の中距離及び近距離ミサイルの廃絶に関する条約(INF条約)
<知見>
4月公表の要約版と同様
<遵守に関する懸念を提起する行動>
大きな異動なし。ただし、次の点では変化があった。
・ロシアのINF条約違反に関する動機に関しての考察部分が削除された。
・SS-N-30a(カリブル)巡航ミサイルにサガリスSagarisというコードネームが付された
・SS-N-30aについて「追加的な情報はより高度な機密付属文書で提供される」との文言が加えられた(ロシアがINF条約に違反して開発しているとされる9M729巡航ミサイルとSS-N-30aの関連について何らかの追加情報が盛り込まれた?)
<遵守に関する懸念についての分析>
・2019年度版にはなかったSS-N-30aについての記述が加えられた。追加された文言は以下のとおり。
「SS-N-30a/サガリス海軍用巡航ミサイル
上述したように、カリブミサイル複合体のいくつかの海上発射型ミサイルは、500kmに等しいか、または500kmを超える実証された射程距離を有する。
2019年2月には、プーチン大統領を含む複数のロシア高官が、カリブミサイルを陸上配備化する提案を公に支持した。当事者の義務が当時中断されていたことと、地上発射される可能性のあるINF射程システムの提案それ自体は、そのようなシステムの実際の生産、試験、または保有を伴わない限り違反ではないため、これらの提案を単に承認するだけではINF条約の違反にはならなかった。
しかし、これらの提案の承認は、ロシアが条約の完全遵守に戻る意思がないことを示した。米国は2019年2月、ロシアが条約違反のSSC-8ミサイルシステムと関連する発射装置を破壊することで完全遵守に回帰した場合、離脱通知を取り消すと明言していた。
カリブルミサイルを地上配備する提案をロシア当局者が支持したことは、ロシアがその行為を条約に適合させようとするのではなく、条約に抵触する可能性のある追加的な行為を考えていることを示唆していた。」
<遵守に関する懸念を解決するための努力及び次なるステップ>
・「遵守に関する懸念を解決するための努力」に「次なるステップ」が付け加えられた
・2019年1月にロシアがミサイルのキャニスターと移動式発射機(TEL)を公開したことは何ら懸念の解決に寄与するものではないとの認識
・米国による対抗的な中距離ミサイル開発はロシアが条約遵守に回帰すれば撤回しうるものであった(過去形)
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