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第108号(2020年11月30日) 再燃するコロナ危機、新START延長、スーダンの新海軍基地 ほか
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【レビュー】コロナ、資金調達、新型ヘリボーン部隊…国防省幹部評議会の注目点
11月27日、ショイグ国防相出席の下で定例の国防省幹部評議会が開催されました。ロシアでも新型コロナウイルスの感染が再拡大しているということもあり、モスクワのロシア国防省内にある国家国防指揮センター(NTsUO)と各地をビデオ会議で結ぶ形式です。もともとロシアは広大な国なこともあってビデオ会議がやたら好きであり、NTsUOにもそのための巨大スクリーン付きホールがあるのですが、コロナ危機のおかげでこの辺のインフラがかなり役立っているという印象があります。
ちなみに今回の国防省幹部評議会で中心となったのもロシア軍内部におけるコロナ感染状況の話で、大要以下の点が報告されました(原文はこちらを参照)
・ロシア軍内では過去2週間に渡り、回復者数が感染者数を上回っている。
・コロナ対策としてロシア軍の病院には8000床が増設され、うち半分は民間人のために使用されている。
・軍人の感染判定のために59台のCT装置が稼働しており、これで1日に2000人を診断することができる。
・コロナウイルス検出のための検査はこれまでに250万件実施された(訳注:PCR検査などの簡易検査であろうが、ロシア軍の総兵力は100万人弱であるから、単純計算で軍人1人あたり2回以上は検査を受けていることになる)
・北方艦隊の母港セヴェロモルスクの軍病院を基盤として第17多目的医療センターの建設が完了しつある。民間人の治療のために軍はすでに7カ所の多目的医療センターを完成させ、3カ所が完成間近の段階にある。
・感染拡大の最初期から数えると、軍は19の連邦構成主体で24カ所の多目的医療センターを建設し、さらに4つの連邦構成主体で5カ所の建設が続いている。
・ロシア国防省の医療専門家2000人以上が、モスクワ州、クルガン州、ハカシア共和国、アブハジア及び南オセチア(訳注:グルジア内の分離独立地域で事実上、ロシアの占領下にある)で患者の治療に当たっている。
・大統領の指示により、40万人のロシア軍人に対してワクチンの接種が行われる予定である。現在までに接種を受けたのは2500人であり、年内にはこの数を8万人にする。
・ワクチン接種を受けた軍人の血漿を利用して重症患者を治療する研究が行われている。
というわけで「ロシア軍内のコロナウイルス対策はバッチリ。民間人の治療にも貢献しています」という話なのですが、ロシア全土での感染者数は毎日2万人超という凄まじい勢いで推移しており、ロシア軍の力を以てしてもちょっと追いついているようには見えません。
ロシアが開発した世界初の新型コロナ用ワクチン「スプートニクV」も何しろ第三段階試験をやらずに実戦投入という相当不安な代物ですから、果たして40万人もの軍人に打ってしまって大丈夫なのか…という気もします。
余談
ロシア軍内における感染状況についてはこちらから閲覧できますが、これがとにかく分かりにくい代物で、情報公開という体で実態を隠したいのだとしか思われません。
他方、連邦政府のコロナ感染状況ポータルはシンプルですっきりと必要な情報がまとまっており、「ロシア、やればできるんじゃないか」という感じです。
閑話休題。今回の国防省幹部評議会で取り上げられたもう一つの大きなテーマが各年度の装備品や物品・役務の調達です。ロシアではこれを「国家国防発注」と呼び、その所々の音節を取ってゴスオボロンザカースとか(英語とは異なり、英語にはこういう「公取委」式の略語が非常に多い)、頭文字でGOZと呼ばれます。
GOZについてはいずれ法的・制度的なことをこのメルマガできちんと取り上げたいと思っていますが、それはそれとして、現在のロシアで問題になっているのは、過去数回に渡ってニュースのコーナーで取り上げてきた資金不足です。
折からの経済停滞に西側の経済制裁とコロナ不況が重なり、いよいよ国防費も(もちろん90年代とは全く比べ物にならない意味で、ではありますが)逼迫してきました。そこで2021年度以降のGOZも果たして予定通りに出せるのか危ぶまれていたわけですが、以下のショイグ国防相発言のようなことになったようです。
「国防省の部隊の充足状況を必要な水準とするため、償還期限を2024-2027年とする特定目的借款を用いた国家契約への資金供給枠組みが、財務省及び産業貿易省とともに策定されました。
これによって兵器、軍用装備、特殊装備の調達量を維持し、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況下でも国防産業コンプレクス構成企業の仕事量を確保し、国家契約の価格上昇や連邦予算からの予定外の支出を避けることができます」
要は国防費の不足分をローンで賄うということであり、これまでにも繰り返されてきた手法です。
連邦予算の外から装備調達費を引っ張ってくるので、国防省は予定通りに装備を買えてニッコリ。軍需産業も仕事が減らないのでニッコリ。財務省も連邦予算を追加支出しなくて済むのでニッコリ。
とショイグは言いたいのでしょうが、問題はこの種の武器購入ローンが度々焦げ付いてきたことです。この結果、最近では銀行もGOZ向けのローン供与には消極的なところが出てきており(大手のアルファ・バンクなど)果たして思惑通りに資金調達ができるかどうか。また、焦げ付いた場合は結局、国防費を大幅に追加してその分を補填してやらねばならないので、財務省はショイグが言うほど「ニッコリ」でもないでしょう。
それでも一応は資金が調達できた場合、ロシア軍の装備調達は次のようになるとショイグ国防相は述べています。
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