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第199号(2022年11月21日)ヘルソン陥落とロシアの「場外乱闘」
【インサイト】ヘルソン陥落とロシアの「場外乱闘」
ウクライナがついにヘルソンを奪還
前号で紹介したとおり、ロシアは11月9日にヘルソン市を含めたヘルソン州のドニプロ川西岸を放棄する方針を表明し、14日には同地域がウクライナ軍によって完全奪還されました。ヘルソンがロシア軍の占領下に入ったのは3月3日のことであり、実に8ヶ月ぶりに解放されたことになります。
ヘルソン市の解放は少なからぬ政治的意味を持ちます。同市はこの戦争が始まってからロシアが占拠した唯一の州都でしたから、これを放棄するということは、ロシアのウクライナ「解放」作戦が明らかにうまく行っていないことを示すものであるからです。それがわかっているからこそ、プーチンはヘルソン市放棄の決断には一切登場せず、あくまでも「ショイグ国防相とスロヴィキン司令官が決めた」という絵をテレビで流させたのでしょう。
ただ、ショイグとスロヴィキンのやり取りはあまりにも大根芝居であり、これでロシア国民が納得するとは到底思われません。実際、右派思想家として知られるアレクサンドル・ドゥーギンは、このままではプーチンが「雨の王」(雨乞いに失敗したために殺される王)の運命を辿ると発言するに至りました(後にフェイクニュースであるとして否定)。
「場外乱闘」へ
ウクライナ軍は9月にハルキウ(ハリコフ)東方への大反攻に成功し、ロシア軍の東部攻略の拠点であったイジュームとリマンを陥落させています。今回のヘルソン西部の陥落はこれに次ぐものですから、ロシアがこの秋以降、戦場で劣勢に立たされつつあることは誰の目にも明らかと言えるでしょう。
ここでロシアは一種の「場外乱闘」戦術に出てきました。ロシア軍が占拠しているザポリージャ原発をウクライナが破壊して「汚い爆弾」として使うかもしれない、あるいはウクライナがカホフカ・ダムを破壊して人工的な洪水を引き起こすかもしれない…あくまでも「ウクライナが」ということわりがついていますが、等のウクライナから見れば、自分たちに罪をなすりつけて巨大な人道的災害を引き起こすかもしれないという脅しと映るでしょう。戦場で勝てないから、後方の住民を人質として使い始めたのではないかということです。
もっとも、これら事態はどれも現実になっていません。現実問題として、ロシアがどう言い訳しようとも「汚い爆弾」やダム破壊を行えばその責任は免れ得ないでしょうし、その場合はNATOによる対ウクライナ援助の強化とか、下手をすると飛行禁止空域(NFZ)の設定のような直接介入を招いてしまう恐れがあるからだと思われます。
思い返せばロシアは3月から「ウクライナに対するNATOの軍事援助を攻撃対象とすることは国際法上、合法だ」と外交・国防当局者が述べて軍事援助を手控えさせようとしてきましたし、同じ時期にはロシアによる生物兵器使用も真剣に懸念されていました。戦術核兵器の使用に関する懸念も同様です。
実現しなかったロシアの「脅し」リスト
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