見出し画像

第98号(2020年9月7日)連合国家の主プーチンがルカシェンコに突き付けた支援の条件とは ほか


存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。
定期購読はこちらからどうぞ。


【インサイト】連合国家の主プーチンがルカシェンコに突き付けた支援の条件とは

 さて今回は悪名高いロシアのプロパガンダメディア、スプートニクを取り上げます。
 RT(ロシア・トゥデイ)と並び、「メディアではなくフェイクニュース機関だ」と呼ばれることもしばしばのスプートニクですが、裏を返すと、彼らの「報道」はロシア政府が人々に信じさせたがっていることを反映している、とも言えるでしょう。
 そのスプートニク・ベラルーシ版に、気になる記事があったので紹介してみたいと思います。

 本題に入る前に、ベラルーシ情勢について簡単にアップデートしておきましょう。
 8月9日の大統領選挙前から選挙後の大荒れの情勢については本メルマガ第95-97号でモスクワ在住国際政治アナリスト村上さんに分析してもらった通りです。
 また、このような状況下でルカシェンコ大統領が意外な粘り腰を発揮し、抗議運動に屈しない姿勢を示しながら反体制派の各個撃破を狙っているという私の見立ては国際情報誌『フォーサイト』の方に書かせてもらいました。

「ベラルーシ「緊迫」でも「第2のウクライナ」にはならない3つの理由」『フォーサイト』2020年9月3日

 さて、この記事でも指摘したように、ルカシェンコ政権が倒れずにいられる大きな要因として、反体制派がロシアの介入を非常に恐れているから、という点が挙げられます。それゆえに抗議運動では反露的トーンを抑え、ロシアが介入に踏み切らざるを得なくなる流血の事態も回避しなければならず、ルカシェンコも最後の一線で踏み止まれているのだ、ということです。
 ロシア側も、事態がコントロール不能になれば介入する姿勢は明らかしており、このロシアの睨みが聞いている限り、反体制派は最後の一歩を踏み出せないでしょう。つまり、国民の信頼はすっかり失ったが意地でも退かない大統領と、国民的な広がりは見せつつも決め手を欠く抗議運動の睨み合いで膠着しているのが現在のベラルーシなわけですが、長期戦となれば国家機構を握っている大統領側がじりじりと優勢を取り戻していくことは不可能ではありません。

 これを別の角度から眺めると、ルカシェンコ大統領はまさにロシアに生殺与奪権を握られているような状態、という構図も浮かび上がってきます。
 では、ロシアはその見返りに何をベラルーシに求めるのでしょうか。当然、気になってくるのはこの点であり、近く予定されているルカシェンコ大統領のモスクワ訪問でもこれが焦点となるのでしょう。
 こうした中の9月3日、ロシアのミシュスティン首相以下、閣僚級の代表団がベラルーシの首都ミンスクを訪問しました。ルカシェンコ大統領とミシュスティン首相の会談冒頭部分を除くとその内容がほとんど不明という謎の訪問なのですが、両国の首脳会談に向けて予備的な話し合いが行われたことは間違いないと思われます。
 では、ここでロシアがベラルーシに突き付けたのはなんだったのか。そのヒントとなるのが、前述の「スプートニク」記事ではないか、というのが今回の主旨です。
 以下、おなじみのDeepL翻訳を使って見ていきましょう。

「ミンスクにおける木曜日の対話で何が話し合われるのか」『スプートニク・ベラルーシ』2020年9月2日

 大統領選挙後、ベラルーシ当局は全世界の注目を集めてきた。抗議の広がり、欧米諸国による制裁の見通しと経済の難航は、長年のパートナーであるモスクワに再び視線を向けることを余儀なくさせた。ルカシェンコ大統領は昨日、ベラルーシとロシアの関係はパートナーではなく、再び兄弟のような関係になったと記者団に直接語った。続いてクレムリンは、ミンスクと共和国の内政に干渉しようとする試みを許さないための無条件の支援について述べた。
 二国間関係の問題点は一年前と同じで、今回はベラルーシ当局の交渉姿勢が異なるだけである。共和国は初めて西側からの圧力に直面しただけでなく、コロナウイルス、選挙結果、経済の悪化によって引き起こされた、真に不安定な内的状況に直面した。
(中略)。
 ベラルーシ側が会談で提起するであろう問題は表面化している。今年の最終四半期には巨額の対外債務(約20億ドル)の支払いが見込まれている。借款の主な部分はロシアからであるから、直ちに借り換えを要請することになるだろう。ベラルーシ当局への厳しい批判の下では、西側からの広範な経済的ジェスチャーをあてにすることはできない。
 エネルギー省がどれだけベルネフチヒム社へのエネルギー供給の多様化に取り組んでも、ミンスクにおけるロシアの石油・ガスの優遇と「適正価格」の問題は不断に提起されるだろう。ルカシェンカは今、ロシアのガスによるベラルーシのエネルギーがベルリン向けのそれよりも高くついていることを改めて想起している。
 マズィルとノヴォポロツクの製油所への「黒い金」(訳注:石油のこと)の供給問題は、年末に合意された。しかし、ワシントンが選挙結果の拒否を公然と宣言し、リトアニアが全面的な制裁リストを作成している現在、北周りの代替供給ルート(訳注:リトアニア経由で米国の石油をベラルーシに供給する計画を指す)はおそらく閉鎖されることになるだろう。ミンスクはすでに反応を示しており、必要に応じて貨物の流れをウスチ・ルガ側に向ける用意があることを表明している。これは確実にロシア側に有利になる。
 モスクワはベラルーシ当局のニーズと、ルカシェンコには対話する相手がいないことを理解しているため、ベラルーシの指導者は交渉に前向きである。ミンスクは「生きた金」だけでなく、外交政策全体についての支援を緊急に必要としている。
 ロシア側にしてみると、連合国家の「ロードマップ」を手に入れるのに最も都合の良い時期は今である。ベラルーシの大統領は、迅速な結果を得て、彼がまだ共和国のために優遇を勝ち取ることができることを有権者だけでなく、敵対者に証明しようとしている。
 ロシア政府の高官が連合国家の将来の運命を決定するよう迫る可能性は十分にある。しかし、昨年の冬、文書(訳注:1999年の連合国家創設条約を指す)に書かれているすべての点を実施できるとクレムリンが述べたのに対し、ミンスクはその実施を一時停止しようとした。なぜなら、共同ビザ制度の導入やローミングの解除と、税と金融の分野における統一政策の導入とは全く別の話であるからだ。
 これらの問題を解決しなければ、エネルギー分野の複雑な結び目を断ち切り、ミンスクが納得する方法、すなわちロシアの国内価格と関税で全てを解決することは不可能であるということはモスクワでは何度も言われてきた。
 また、協議当事者たちは、ベラルーシの原子力発電所による電力生産についても話し合うことになるかもしれない。ミンスクの政府関係者にとっては予想外だったが、選挙の結果とベラルーシの街頭での抗議行動は次のような結果をもたらした。つまり、バルト諸国はビリニュス(訳注:リトアニア)の歓心を買うため、ベラルーシの電力を購入しないことでポーランド企業と合意したのである。ちなみに、原子力発電による電力を販売する会社は、ベラルーシとロシアの合弁だ。
 NATOの戦車が共和国の国境付近を徘徊し、北大西洋同盟の航空機は数分でミンスクに到達しうるというルカシェンコ大統領の発言は、予期せぬ結果につながるかもしれない。ロシア側は、NATOの活動に懸念を抱く共和国を守るため、ベラルーシの領土に軍事基地を置くことを提案するのが妥当だろう。現在のパズルにはミンスクに有利な組み合わせは存在しない。ヴィレイカとガンツェヴィチの2つのロシア軍施設の租借を自動延長する問題は簡単に解決できるだろう。
(中略)
 交渉がいつまで続くのか、最終的な議題は何なのか、参加者を除いては誰にもわからないが、おそらく歴史的な交渉である。

ここから先は

4,408字 / 1画像

¥ 300

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?