第272号(2024年7月8日) ロシア軍の志願兵は本当は何万人なのか問題 プーチンを交渉のテーブルにつかせるには ほか
【今週のニュース】ロシア軍の志願兵は本当は何万人なのか問題 プーチンを交渉のテーブルにつかせるには ほか
ロシア軍の滑空爆弾がロシア領内に落ちている件
『ワシントン・ポスト』によると、ロシア軍が使用している滑空誘導爆弾がこれまでに少なくとも38回、ロシア領内に落下する事故が起きているという。
本メルマガでも以前に紹介したように、ロシア軍は2022年の秋ごろからFAB-250無誘導爆弾にUMPKと呼ばれるキットを装着して使用し始めた。UMPKはロシア版GPSであるGLONASS衛星航法システムの受信装置とこれに応じて作動する制御翼、そして射程を伸ばすための滑空翼から成る。2023年に入るとより大型のFAB-500爆弾にも取り付けられ、アウディーウカ攻防戦では大いに威力を発揮した。
要するに米軍が使用しているJDAMのロシア版というところであるが、UMPKは戦時下で開発・生産されたものであるから、見た目からしていかにも急拵えである。そのために誘導精度はあまり高くないとは以前から言われていたものの、どうもきちんと作動せずにウクライナ領内に到達するものが結構多いらしい。おそらく翼が展張しなかったのだろう。
もっとも、実際に信管が起動して犠牲者を出した例はそう多くなく、大部分は不発のまま森の中に落下するなどしたものが後から発見されたケースであるという。
制裁に適応するロシアの工作機械産業
ロシアの名門大学として知られる高等経済学院(VShE)の統計研究・経済知識研究所(ISIEZ)が、ロシアの工作機械産業に関するレポートを公表した。
ロシア工作機械メーカーに対して行われたアンケート調査をもとにしたものであり、技術主権(技術の独立性)のレベルが「高い」と答えた企業は18%、「平均的」が61%であった。業界全体の従業員数は41万6900人と2021年度比で2万8100人増え、製造も増加しているという。兵器の増産需要に応える形で工作機械産業が成長していることが窺われる。
このレポートが触れていないのは、西側から工作機械関連技術の制裁を受けているロシアで工作機械産業がどうやって成長を実現しているのかということだ。これについては今年1月、『フィナンシャル・タイムス』が詳細な調査報道記事を掲載しており、(大方の予想通りだが)中国からの輸入が開戦前の10倍にも増加したという。ただ、そこは中国もしたたかで、ロシア向け工作機械の価格が2021年から2023年にかけて中央値で78%も増加したというフィンランド銀行の分析結果が紹介されている。
この記事には他にも重要な知見が示されている。EUからの輸入減を補う形で増加しているのは中国製工作機械だけでなく、台湾や韓国製についても同様であった。ここは西側として早急に塞ぐべき「穴」と言えよう。
日本も無縁ではない。『フィナンシャル・タイムス』の別の記事では、ロシアが日本製の古い工作機械を大量に調達していることが指摘されている。もちろんロシアに対して直接販売しているわけではなく、中国や中東に拠点を置くダミー会社を通じて迂回輸入を図っているということのようだ。この意味では、我々にもまた、やるべきことはまだ残されていると言えるだろう。
プーチンを和平のテーブルにつかせるには
『ドイッチェ・ヴェーレ(DW)』は、どうすればプーチンに和平交渉を呑ませられるかについてドイツ外務省高官二人の見解を掲載した。インタビューに答えたのは、モスクワ大使も務めたリュディガー・フォン・フリッチュ元連邦情報局副長官と、メルケル政権の外交政策顧問を務めた現ミュンヘン安全保障会議議長、クリストフ・ホイスゲンの二人である。
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