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第190号(2022年9月5日) ウクライナのヘルソン攻勢をどう見るか

【インサイト】ウクライナのヘルソン攻勢をどう見るか

攻勢には転じたが…

 8月29日、ウクライナ国防省は南部のヘルソンで攻勢を開始し、ロシア軍の「第一防衛線」を突破したと発表しました。米戦争研究所(ISW)等が発表している戦況図を見るに、攻勢はドニプロ川西岸のロシア軍支配地域全域に対する幅広いものであり、複数の攻勢軸が設けられているようです。
 ウクライナは6月にも攻勢を開始する意向だと以前は見られていましたが、5月以降にドンバス方面でロシア軍の攻勢が強まったことで兵力を東部に転用せざるを得ず、主導権はロシアに握られたままでした。

 しかし7月以降、ウクライナ軍が守りの薄いヘルソン方面に兵力を集結させ、さらに8月以降にはクリミアに対する攻撃が始まると、ロシア軍はドンバスから多数の部隊をこの正面に転用せざるを得なくなりました。つまり、どこで・いつ・どのようにして戦うのかを決定する力(主導権)をこの夏からウクライナは握ろうとし始め、今回の攻勢につなげたということになります。
 ただし、これは「サーブ権」を取ったということであり、実際にサーブが決まるかどうかはまだ不透明です。ウクライナ軍の攻勢はうまく行くかもしれないし、ロシア軍が撃退してしまうかもしれない。その結果、ロシアがウクライナ軍の主力を壊滅させて再び主導権を取るのかもしれないし、どちらも決定打を得られずに膠着状態になるのかもしれない…ということです。
 実際、攻勢開始から一週間経ってもウクライナ軍はロシア軍の防衛線を大規模に突破できてはいないようであり、激しい戦闘が続いています。

そもそも何を目的とした攻勢なのか

 ちなみに、BBCの取材に答えたウクライナ政府高官は、今回の攻勢がヘルソンを一気に取り返そうとするものではなく、ロシア軍に消耗を強いることが目的であると述べています。

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