第92号(2020年7月20日) 米国務省の軍備管理遵守報告書-4 ロシアのオープンスカイズ条約違反と米国の「決別」宣言
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【レビュー】米国務省の軍備管理遵守報告書-4ロシアのオープンスカイズ条約違反と米国の「決別」宣言
米国務省軍備管理・検証・遵守局の年次報告書2020年度版を読んでいこうという連続企画、今回は第4回目をお送りします。
第1回目は米露間の核軍縮問題とそこに中国を加えた将来像、第2回目は中露による核実験の禁止・停止措置違反疑惑、第3回目は化学兵器禁止条約(CWC)と生物兵器禁止条約(BWC)に関するロシアの違反疑惑、と大量破壊兵器の話が続きました。
翻って今回は、冷戦後に導入された信頼醸成枠組みであるオープン・スカイズ条約(OST)が対象です。
OSTは5月21日に米国のポンペオ国務長官が脱退を表明し、日本でも結構注目を集めたのでご記憶の方も多いと思います。私もYahoo!ニュース個人で条約の概要や、米国がロシアに対して抱いていた不満を詳しくまとめた記事を書きました。条約の概要についてはこちらを参照願いたいと思います。
今回の報告書は、脱退表明後に米国が出してきた初めての「公式見解」ですので、その言い分を詳しく見ていきたいと思います。
なお、2019年度版との差分はテキスト比較ツール difff《デュフフ》で抽出し、翻訳はAI翻訳サービスDeepLを使用して手直しを加えました。
第六部:通常問題に関する軍備管理、不拡散、軍縮協定及び約束の遵守及び遵守
オープンスカイズ(OST)
ロシア連邦(ロシア)
<知見>
2019年、米国は引き続き、ロシアが2つの点で開放空域条約(OST)に違反していると評価するとともに、新たに1つの違反がある評価した。具体的には、2019年、ロシアは以下の点で条約に違反していた。
1) 条約附属書Aの第3条及びオープンスカイズ諮問委員会(OSCC)の決定3/04(に関する違反):クビンカのオープンスカイズ指定飛行場を起点とするすべての飛行について、カリーニングラード州上空で500kmの「サブリミット」を課し、強制した。
2) 条約第6条(に関する違反):グルジアの南オセチア及びアブハジア地域とのロシアの国境に沿った10キロの回廊内での観測飛行へのアクセスを拒否した。
3) 条約第6条(に関する違反):2019年9月20日、ロシアの軍事演習「ツェントル2019」実施地域上空に、米国及びカナダの飛行区間を設定することを不当に否定した。
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