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第157号(2021年12月13日) ロシア軍次期装備計画詳細 参謀総長の語る国際情勢 ほか

【今週のニュース】ゲラシモフ参謀総長の年末会見に見るロシアの国際情勢認識 ほか

ステルス無人攻撃機オホートニクに関するニュース三題

 装備行政を担当するアレクセイ・クリヴォルチコ国防次官は、テレビのインタビューに対し、ステルス無人攻撃機オホートニクがノヴォシビルスク航空機工場で公開(おそらく限られた政府高官に対してのみ)されたことを明にした。
 オホートニクの試作機は既に外観が公表されており、飛行試験も開始されているが、クリヴォルチコによると今回公表されたのはステルス製の高いフラットノズルを備えた改良型であるとされている。
 また、この記事でTASS通信が匿名の情報筋談話として紹介しているところによると、Su-57戦闘機は最大4機のオホートニクを制御する能力を持ち、そのためにコントローラーを乗せた複座型が開発される可能性が高いとしている。
 また、この番組中、クリヴォルチコは、オホートニクの量産契約が半年位以内に締結されるだろうという見通しを示した。
 さらに同日、ロステフ(オホートニクの開発元であるスホーイの親会社)のセルゲイ・チェメゾフ総裁は、オホートニクを世界中のあらゆる地点で制御するための遠隔制御ステーションが開発されていることを明らかにした
 これはクロンシュタット社が以前明らかにしたものを指すと見られ、おそらくはブラゴヴェスチ高速通信衛星を用いると考えられる。

太平洋艦隊沿岸防衛部隊にT-80BVM戦車を配備

『TASS』2021年12月10日
 太平洋艦隊沿岸防衛部隊は、近代化改修型のT-80BV戦車(T-80BVM)を20両以上受領した。T-80BVMはウラジオストク近郊の鉄道駅まで鉄路で運ばれ、そこから部隊に配備されたと報じられていることから、おそらく沿海州の第155海軍歩兵旅団配備になったと見られる。

ゲラシモフ参謀総長が外国武官団と定例の年末会見を実施

ロシア国防省、2021年12月9日
 12月9日、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長が外国武官団と会見した。その際、ゲラシモフからのプレゼンテーションはこちらのPDF資料にまとめられているが、今年は武官団との応答内容は公表されていない模様である(どちらかというと面白い発言はこうしたやりとりの中に見出されることが多い)。
 以下では、ゲラシモフの発言の中から興味深い点を抜粋する。

・欧州及びアジア太平地域における短・中距離ミサイルの配備は地域及び世界の安全保障にとって深刻な脅威であるため、配備の一時中止(モラトリアム)を提案する
・ロシアは宇宙兵器の配備禁止を提案しているが米国がこれを拒否している
・軍備管理には新たなアプローチが求められている。したがって、戦略的安定性に影響を与えるあらゆる種類の攻撃・防御兵器、サイバー空間、宇宙、人工知能をカバーする「新しい安全保障の枠組み」をロシアは提案する
・欧州ではNATOが軍事活動を活発化させており、今年行われた欧州防衛演習後も一部の米軍アセットが撤退していない
・11月だけで米国はロシア周辺だけで30回もの爆撃機による飛行を行い、ロシアに対する巡航ミサイル発射訓練を実施した。これは前年同月比で2.5倍の頻度である
・NATOはロシア国内におけるロシア軍の動きを過剰に注視ししているが、国内におけるロシア軍の動きはいちいちNATOに通知する必要はない。ロシアがウクライナに侵攻しようとしているという情報は嘘である
・ウクライナは西側からヘリコプター、ドローン、ミサイルの供与を受けて危険な動きを示している。また、キエフはミンスク合意を履行していない。この結果、ウクライナ東部の状況はますますエスカレートしている
・ドンバス問題を武力で解決しようとするウクライナ政府の挑発は阻止されるだろう
・中央アジアや中東ではイスラム過激派テロ組織が不安定要因となっており、その支持者は増加している
・アジア太平洋地域のパートナーとは積極的に連携している。今年はASEAN+の枠組みによる国防省対話とASEAN地域フォーラム(ARF)に参加した
・米英豪によるAUKUSは核技術の拡散につながる。オーストラリアが原子力潜水艦隊を建設すれば、アジア太平洋だけでなく世界の他の地域においても地域支配をめぐる争いを引き起こしかねない
・ロシアと中国の協力はアジア太平洋地域の安定にとって重要な要素である。11月には2025年までの中露軍事安全保障協力のロードマップが締結され、この中では共同訓練と海上・空中パトロールを継続していくことが宣言された
・来年は東部軍管区で「ヴォストーク2022」演習を実施する

【レビュー】ロシア軍次期装備計画について(現時点で最も詳しいインタビュー)

軍需産業評議会と国家武器プログラム(GPV)

 12月9日、軍需産業評議会のアンドレイ・イェルチャニノフ第一副議長がインターファックス通信のアレクサンドル・ベロフ記者のインタビューに応じました。2024年にスタート予定の新10ヵ年軍備計画「2033年までの国家武器プログラム(GPV-2033)」について、これまでになく具体的かつ詳細な情報を明らかにしたものです。
 そこで今回はこのインタビューの中身を紹介していきたいと思いますが、その前に前提条件を二つ確認しておきましょう。
 ロシアの軍需産業は「国防生産コンプレクス(OPK)」と総称され、その活動を調整する常設機関としては大統領付属軍需産業委員会(VPK)が設置されています。VPKは大統領を議長、OPK担当副首相(現在は元国防次官のユーリー・ボリソフ)を副議長として、その他の委員としては国防大臣、参謀総長、FSB長官、SVR長官といった軍用装備のユーザー側の長、財務大臣、経済発展大臣といった財政担当の長、そして産業貿易大臣や国営宇宙公社ロスコスモス総裁といった軍需産業監督省庁の長が名を連ねています。
 一方、VPKにはVPK評議会というものが付属しており、前述のボリソフ副首相(VPK副議長)を評議会委員長とし、軍需産業各社の社長クラスや国防次官などがメンバーとなっています。
(軍需産業評議会のメンバー構成については大統領令で定められている)
 というわけで今回インタビューを受けたイェルチャノフ氏は、これら産業側を束ねる協議機関の第一副議長であるということを抑えておきたいと思います。
 もうひとつ確認しておきたいのは、国家武器プログラム(GPV)というものの位置付けです。これは概ね我が国の中期防に相当し、10ヵ年で策定しておいて、その途中で実施状況を見直した上でまた新たな10ヵ年計画にスイッチするというサイクルで実行されていきます。現在進行しているのは2018年にスタートした「2027年までの国家武器プログラム(GPV-2027)」ですが、ちょうど2023年で実施期間の半ばに差し掛かるので、これを新たなGPV-2033へスイッチしようとしている、というのが現在の状況であるということです。

ソチにおける会談の中身

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