見出し画像

第278号(2024年9月2日) 核兵器の「抑止」的効用とウクライナの長距離攻撃能力(とロシアの原子力巡航ミサイル?)


【インサイト】核兵器の「抑止」的効用とウクライナの長距離攻撃能力(とロシアの原子力巡航ミサイル?)

「核ドクトリンを修正中」 ラヴロフ外相

 ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相が「核ドクトリンを修正中である」と述べたことを『ヴェドモスチ』が報じています。8月27日に行われたイエメン外相との会談後、記者会見で述べたもの。正確には次のような発言でした。
「我々には独自のドクトリンが、核兵器の使用に関するものも含めて存在するということを理解するのは非常に重要だ。それ(訳註:「核ドクトリン」にかかる関係代名をここでは便宜的にこう訳す)は現在修正中である。(従来のドクトリンついては)アメリカ人もよくわかっている」
 このメルマガでも幾度か報じてきたように、「核ドクトリン」の修正に関する言説は特に今年以降、頻繁に見られるようになってきています。今年5月から7月にかけて実施された戦術核演習と合わせ、核抑止力の信憑性を再確保しようとするものでしょう。

 他方、核使用基準について言及した過去の文書(2014年版軍事ドクトリンとか2020年の「核抑止政策の基礎」とか)は特にこういう「振り」なしでいきなり公表されています。こういう文書についていろいろな人が予告めいたことを繰り返し口にするという現状自体、やはりデモンストレーション的要素が強いという結論を示唆するように思われるのです。
 これはロシア側の言説がこけおどしであると言っているわけではありません。核兵器に備わっているいくつかの効用のうち、脅しによる「抑止」(ウクライナへの軍事援助の抑制等)が特に重視されているのだろうということです。
 他方、核兵器には「強要」という効用もあります。一般的に、抑止と強要を分けるのは、それが能動的なものであるかどうかとされ、つまり不行動を要求するのが前者、行動を要求するのが後者ということになるでしょうか。この戦争についていえば、ウクライナに停戦を強要するとか、ウクライナをそう促すように西側諸国を促すということがここでいう強要に該当するでしょう。ただ、核兵器による強要に成功事例が少ないことは先行研究でも指摘されているとおりであり、実際、ロシアもこの戦争で核強要を試みているようには見えません。

ウクライナの新型長距離ドローンと国産弾道ミサイル

 8月25日、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンシキー大統領は、一連の国産兵器について紹介した動画をTwitterに投稿しました。この中に含まれていたのが新型自爆ドローン「パリャニツァ」です。ターボジェットエンジンを搭載し、ウクライナ国境周辺にあるロシアの飛行場20ヶ所を攻撃できるという触れ込みでした(動画中では、西側がロシアの飛行場攻撃を許可してくれないということについての恨み言もきっちり言っている)。動画を見るとヴォロネジのバルチモール飛行場やロストフのミルレロヴォといった国境付近の飛行場だけでなく、ヂャギレヴォ、サヴァスレイカ、エンゲリスなどウクライナと国境を接しない地域の飛行場がターゲットとされていますから、少なくとも1000km程度の航続距離はあるのではないかと思われます(パリニツァについて詳しくは以下を参照)。

ここから先は

2,704字 / 1画像

¥ 500

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?