第252号(2024年1月29日) 衛星画像分析 ロシアの核実験場で怪しい動き
【インサイト】衛星画像分析 ロシアの核実験場で怪しい動き
ノーヴァヤ・ゼムリャー島概観
今回はウクライナの戦況を離れて、そのずっと北にあるノーヴァヤ・ゼムリャー島という聞き慣れない島を取り上げたいと思います。
ノーヴァヤ・ゼムリャーは北極海に浮かぶ島で、その西側がバレンツ海、東側がカラ海に別れています。元々はネネツ族という少数民族が住んでいたのですが、1950年代には彼らを追放して島全体が核実験場にされてしまいました。カザフスタンのセミパラチンスク核実験場に次ぐソ連で2番目の核実験場です。1990年にソ連が核実験を全面停止するまでに行われた核実験は合計132回に及ぶとされています(大気圏内核実験87回、地下核実験42回、水中核実験3回)。
核実験場としてのノーヴァヤ・ゼムリャー島は3つのゾーンに別れています。
最も南側のゾーンA(チョールナヤ・グバー周辺)は初期の核実験に使用され、水面・水中核実験や地下核実験が行われました。一方、細長い形をした島のちょうど中心部あたりに位置するのがゾーンBで、1964年から1990年までの間に36回の核実験が実施されたと言われています。最後のゾーンCはその少し北側にあるスホイ・ノース半島で、大気圏内核実験を禁じる部分的核実験禁止条約が成立するまでの間、地表・空中核爆発実験がここで行われました。
このように、ゾーンAとゾーンCは基本的に大気圏内核実験用であったため、1962年までしか使われていません。一方、ゾーンBは前述のように1990年に核実験が停止されるまで使われていたわけですが、デタント期以降の主力実験場はゾーンBだったということになります。また、ロシアはその後もゾーンBで未臨界核実験を行ってきたので、核爆発そのものは伴わないとしても、現役の核実験場ではあり続けてきました。
さらに言えば、ソ連崩壊によってカザフスタンは独立国となり、のちに中央アジア非核地帯条約に加盟しているので、ノーヴァヤ・ゼムリャーはロシアが利用できる唯一の核実験場でもあります。
CTBTをめぐる米露の論争
そのノーヴァヤ・ゼムリャーで怪しい動きがある、という話は少し前から出ていました。
その端緒は2019年、すべての核爆発を禁じる包括的核実験禁止条約(CTBT)にロシアが違反して、超低出力の核実験をノーヴァヤ・ゼムリャーで行ったのではないかと『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じたことです。真相ははっきりしませんが、当時のトランプ政権関係者らは、CTBTに違反する何らかの行動をロシアが行なったらしいことは否定していません。
一方、ロシア側はこの疑惑を真っ向から否定しており、米露の主張は平行線を辿ってきました。
また、この時点ではロシアが本当にCTBT違反の実験を行ったのかは疑わしいという専門家の反論は少なくなく、それなら米国の行っている未臨界核実験はどうなのかといった議論も外部から上がっていたことは公平を期すために述べておくべきでしょう。
新たな坑道の出現
結局、2019年に本当に核実験が行われたのかどうかははっきりしないのですが、その数年前、ロシアが核実験用の新たな坑道を掘っていたことが衛星画像で確認できます。
現状、私が把握している限りでは、ゾーンBには16箇所の地下核実験場跡地が存在しています(図1)。それぞれの箇所についてはkmz.ファイルをこちらからダウンロードしてGoogle Earthで確認できるようにしてありますが、ほとんどの箇所はもはや荒れ果てていて、使用されていないことがわかります。
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