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第258号(2024年3月18日) ロシア軍の軍管区再編が意味するもの



【今週のニュース】ウクライナ向け砲弾供給計画続報 ほか

ロシア海軍総司令官罷免?

 先週、ロシアのマスコミ各社は、ロシア海軍のニコライ・エフメノフ総司令官が罷免されたのではないかという観測を一斉に報じた。出元は『イズヴェスチヤ』の記事である。
 この戦争が始まって以来、ロシア海軍はミサイル攻撃と水上ドローン攻撃によって巡洋艦1隻、潜水艦1隻、大型揚陸艦4隻、哨戒艦2隻、ミサイル艇1隻など多数の損害を出している。第二次世界大戦後のロシア海軍が被った損害としては例を見ないものであり、その責任を取らされた可能性がある。公認は北方艦隊司令官のアレクサンドル・モイセーエフ大将であると伝えられている。

 ただ、現在のところ、海軍総司令官の人事に関する公式の大統領令は出ていない。また、3月17日にショイグ国防相が黒海艦隊の指揮所を視察した際にはエフメノフが同席しているので、軍人としての籍は残っているようだ。他方、この視察の際に公表された動画では、エフメノフとモイセーエフの肩書き部分にボカシが入れられるという不自然な処理が見られた。海軍の人事に関して何らかの変更があった可能性は依然、高そうである。

 チェコ主導のウクライナ向け砲弾供給は「遅くとも6月」

 チェコ主導で集められた80万発の砲弾の第一陣は「遅くとも6月」にはウクライナに供給される見込みである。チェコのトマス・ポジャール安全保障補佐官の発言として13日、『ロイター』が報じた。
 本件は3月7日にチェコのパヴェル大統領が公表し、砲弾不足に苦しむウクライナ軍を救うための切り札として国際的な注目を集めてきた。その後、80万発分の資金が集まったとか、まだ30万発分だといった話が錯綜しているが、やはりまだ全量の購入資金は集まっておらず、実際の供与にもまだしばらく時間がかかるということのようである。

 なお、チェコ主導の砲弾供給枠組みについては最近、ポルトガルが1億890万ドルの供与を表明した。80万発分の砲弾に必要な資金は大体15億ドルとされているから、これまでに明らかになっている各国の拠出額を考えると、数十万発分の予算は確保できているのだと思われる。

 また、チェコは、33億ドルあれば合計150万発(つまり今動いている80万発分に加えてさらに70万発)の供与が可能であるとしており、これに欧州諸国の増産分を足せば、来年にはウクライナが再び攻勢に出るだけの火力を確保できる目処が立つかもしれない。もっとも、資金が集まらなければこれは画餅に終わる。このメルマガで繰り返し主張してきたことだが、日本としても資金拠出を考えるべきではないだろうか。


【インサイト】ロシア軍の軍管区統合が意味するもの

5個管区からまた5個管区へ

 やや旧聞に属する話ですが、2月26日、「ロシア連邦の軍事行政境界について」という大統領令にプーチンが署名しています(2024年度大統領令第141号)。タイトルのとおり、ロシアの軍事行政区分である軍管区(VO)の境界を変更するよう命じるもの。発効は3月1日からで、3ヶ月間で施行するようにとなっていので、5月までには軍管区の境界変更が完了することになるでしょう。
 今回の大統領令が出る以前、ロシアの軍管区は次のように構成されていました(2020年度大統領令第374号による規定)。

・西部軍管区
・北方艦隊軍管区
・南部軍管区
・中央軍管区
・東部軍管区

 これに対して、今回の大統領令第1条では、軍管区は次のように規定されました。

・レニングラード軍管区
・モスクワ軍管区
・南部軍管区
・中央軍管区
・東部軍管区

 管区の数自体は5つで変わらないものの、かつて西部軍管区及び北方艦隊軍管区とされていたあたりが何やら変化したようです。では、どう変わって、何を意味するのか。今回はこの点について考えてみたいと思います。

軍管区とは何なのか

 そもそも軍管区とは何かということですが、プーチンの大統領令が述べるとおり、軍事に関する行政の単位を意味します。ロシア国防省の定義では、「責任範囲の領域内においてロシア連邦の武力による防衛の準備並びに領域の武力による防衛、一体性及び不可侵に関する措置を行うためのロシア連邦軍の作戦・戦略領域連合部隊」であるとされています。また、その構成要素には、軍事指揮機関、連合部隊、兵団、軍事部隊、ロシア連邦軍の機関、軍事委員会が含まれます。
 要は、平時においては領域内のロシア軍部隊を管理するための行政機関であるわけです(軍事委員会が入っていることからもわかるように、徴兵も軍管区が責任を持つ)。
 では、軍管区は軍事的な指揮系統そのものであるかというと明確にそのようには決まっていません。それほど規模の大きくない戦争であれば平時の軍管区のままで対処しますが、かつての独ソ戦のような巨大戦争が起きた場合には軍管区の上に戦線(front)という指揮単位が出現し、いくつかの軍管区を統合指揮することになっていました。この場合、軍管区は戦時軍管区(VOV)というものに衣替えされ、動員、領域防衛(破壊工作員への対処等を意味する)、防空、輸送、住民の軍事訓練などを行うという建て付けでした。この意味でも、軍管区とはあくまでも行政単位であるわけです。

ソ連崩壊後の軍管区

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