第270号(2024年6月24日) 核ドクトリン変更に関する二つの発言、先祖返りするロシアの軍管区 ほか
【今週のニュース】
核兵器使用基準をめぐる二つの発言
6月20日、北朝鮮を出発してヴェトナムを訪れたプーチン大統領は核ドクトリンの変更の可能性(特に予防攻撃を認める可能性)についてマスコミから発言を求められた。この際のプーチンの返答は、以下のとおり。
以上のように、プーチンはさほど過激なことを言っているわけではない。特に予防攻撃をドクトリンに盛り込むことを明確に否定した点は注目に値しよう。ただ、予防攻撃(превентивный удар)というのは戦争が始まっていない状況下での核使用、まさに戦争そのものを「予防」するための開戦阻止核使用であるから、現状に即して言えばウクライナを支援するNATO加盟国に対して核を使い、なんらかの強要の道具とするようなシナリオが想定される。もともと現実性の高いシナリオとは言えまい。
他方、より現実性の高いシナリオ、例えばウクライナの戦場で核兵器を戦闘使用することで形勢を有利にするとか、停戦を強要するために限定核使用を行うといったシナリオについてプーチンは触れていない。
他方、議会下院国防委員会のカルタポロフ委員長(元参謀本部作戦総局長、国防省政治・軍事総局長)が国営通信社『RIAノーヴォスチ』に対して語った内容は、短いが興味深い。ドクトリンというのは我々が外部の環境にどう反応するのかを規定するものであるから、問題はその外部環境というやつである。それが著しく悪化するなら、ドクトリンを変えねばならない。核ドクトリンについて言えば、核兵器の使用とその決断に関する時期を変更する必要があるだろう。もちろん、具体的なことについて話すのは時期尚早だが…というのがカルタポロフの述べたことである。
興味深いというのは、核使用そのものの時期だけでなく、核使用の決断の時期についてもカルタポロフが触れていることである。これが何を意味するのかはまだはっきりしないが、一応は元参謀本部作戦総局長のいうことであるだけに、それなりに注視しておきたい。
もう一つ感じられるのは、プーチンやカルタポロフの口ぶりからして『軍事ドクトリン』の改訂話がそろそろ実現しつつあるのではないか、ということである。前回のドクトリンからちょうど10年であり、国際環境やロシア軍をめぐる状況も大きく変わっているのだから、そろそろ改訂されてもおかしくないだろう。
先祖返りするロシアの軍管区
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