見出し画像

第79号(2020年4月13日) コロナウイルスとロシアの軍需産業


存在感を増す「軍事大国ロシア」を軍事アナリスト小泉悠とともに読み解くメールマガジンをお届けします。
定期購読はこちらからどうぞ。

【インサイト】コロナウイルスとロシアの軍需産業

 本メルマガ第77号ではロシア軍によるイタリアへのコロナウイルス対策支援について紹介しましたが、今回は軍需産業への影響について簡単に紹介したいと思います。4月2日、プーチン大統領は外出規制を4月いっぱいまで延長することを発表しましたが、これは他の産業セクターと同じく軍需産業にとっても頭の痛い問題になっているようです。
 4月6日付『ヴェドモスチ』によると、ロシア最大の国営軍需産業ホールディング「ロステフ」は傘下企業に対し、「保健当局の勧告を無条件に実施しながら」国家国防発注や輸出向け武器生産を実行できるだけの労働力を確保するよう通達を出したとのこと。
 コロナは怖いが納期遅れも怖いという、なんとなく親しみの湧く話ではあります。ただ、実際にはそううまくも行かないようで、『ヴェドモスチ』は軍需産業各社の次のような窮状を伝えています。

某軍需産業ホールディング社長談話
 リモートワークと職場に出勤する人の給料が同じというのは不公平であり、職場に出てくる人には割増賃金を払わないとモチヴェーションが下がるだろう。しかし割増分をどう原価に反映させるのかについて政府からも国防省からも説明がない
某陸軍向け兵器生産企業社長談話
 そもそも軍需産業の中には割増賃金を払うだけの余裕がないところもある。生産停止となった場合には軍に武器を納入できず、したがってその売り上げから給料を支払うことができない。また、国家国防発注案件では予算執行が極めて厳格なので自社資金から勝手に払うと違法になる。サプライチェーンの断絶も問題。

 4月9日にはプーチン大統領出席の下で軍事技術協力委員会が開催されましたが、ここでも焦点となったのは軍需産業のコロナ対策です。会議冒頭、プーチン大統領は「今日の外出自粛下で(産業、地方政府、ホールディング本社、政府間の)関係がどうなっているか見てみたい」と発言。これに対して次のような報告がなされました。

ここから先は

4,096字

¥ 300

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?