
第158号(2021年12月20日) NATO不拡大に関するロシア提案 戦略ロケット軍記念日 ほか
【NEW CLIPS】ロシア戦略任務ロケット部隊創立62周年記念クリップ
ロシア国防省、2021年12月17日
【レビュー】カラカエフ戦略任務ロケット部隊司令官インタビュー
12月17日、ロシア軍の独立兵科である戦略任務ロケット部隊(RVSN)は創立62周年を迎えました。毎年、この種の軍種・兵科の創立記念日には司令官のインタビューが軍の機関紙『赤い星』に掲載され、RVSNも例外ではないのですが、今年のカラカエフRVSN司令官の発言には興味深い点がいくつか含まれているので、その要点を紹介したいと思います。
なお、問題のインタビュー記事はこちらで閲覧できます。
RVSNの編制について
現在、RVSNは3個ロケット連合部隊(ロケット軍)、12個ロケット兵団(ロケット師団)、弾薬庫、第4諸軍種国家演習場(アストラハン州)、第10試験演習場(カザフスタン共和国)で構成されている
移動式ロケットとサイロ発射式ロケットを装備する2種類の部隊編制は今後とも維持する
移動式ロケットとサイト発射式ロケットの比率はほぼ同じくらいだが、後者には重ICBMが含まれるので核弾頭の配備数はこちらの方が多い
将来的には運搬手段(ミサイル)と核弾頭の数は変わらない
RVSNの運用する弾道ミサイル戦力について
今後数年のうちに、RVSNは国家武器プログラム(GPV)の枠内でサルマート重ICBM及びヤルスICBMを受領する
新しい移動式ICBMが開発中である
当面は核抑止力を維持するために必要な運搬手段を戦闘準備状態に置き続ける
今後は新たなロケット・システムを開発し、これに応じて部隊を再編成する
新型ロケット・システム開発のための科学技術的基礎を築く
米国が欧州において展開しているミサイル防衛(MD)システムはロシア西部に配備されたICBM部隊を脅威に晒す可能性があるため、新型ロケット・システムにはMD突破システムが装備される
極超音速滑空飛翔体(HGV)を搭載したアヴァンガルド・システムは、現在及び将来のMD突破能力を有する。HGVは飛翔速度がマッハ20以上の高速を発揮するだけでなく、敵の防空網を迂回することが可能であり、機動によってどの目標を狙っているのか予測することを困難化できる
ただ、米国はHGVに対する防衛システムの開発を早いペースで進めているので、HGVを含めた新たなMD突破システムを開発している
新型の戦闘部(筆者注:弾頭とポスト・ブースト・ヴィークル(PBV)をまとめて呼ぶロシア式の呼称)が固体燃料式ICBMを含めて将来的に搭載される
新戦略兵器削減条約(新START)の5年延長について
米露政府の合意によって新STARTは2026年2月5日まで延長された。これは無条件のものであり、保有上限、検証措置の回数、データ交換の手順も変わっていない
装備更新の現状について
コゼリスクのロケット師団ではサイロ発射式ICBMをヤルスに更新する作業が続いている
移動式ICBMを装備する8個のロケット師団のうち、6個はすでに装備更新を完了した
2011年から2021年の間に21個ロケット連隊が警戒態勢に就き、新型ミサイルの装備率は38%から83%に向上した
今年はサイロ発射式ヤルスを装備するコゼリスクのロケット連隊(単数形)と移動式ヤルスを装備するバルナウルのロケット連隊(単数形)が警戒態勢に就く
現在までに36個ロケット連隊が新型ミサイルへの装備更新を完了しており、このうち20個連隊が移動式ミサイル装備、16個がサイロ発射式ミサイル装備である
2022年には4個ロケット連隊が任務に就く。その内訳は、サルマート重ICBMを搭載するロケット連隊(ウジュール)、アヴァンガルド極超音速ミサイルを装備する新設ロケット連隊(ヤースヌィ)、移動式ヤルスを装備する2個ロケット連隊(トヴェリ及びキーロフ)である。
ウジュールでは既に最初のサルマート装備連隊の設置作業が進んでいる
サルマートの実戦配備は2022年から始まり、これに合わせてヴォイェヴォーダ(SS-18)が段階的に退役していく
数年以内にはソ連製ミサイルは完全に退役する
ミサイル発射訓練について
過去5年間で25回以上のミサイル発射訓練が実施された
発射訓練にはヤースヌィ基地とプレセツク宇宙基地が使用された
来年は10回以上のICBM発射が予定されており、その大部分は新型ミサイルの試験発射である
移動式ICBMのパトロールについて
ロシアの移動式ICBMはトヴェリからイルクーツクに至る15の連邦構成主体に及んでいる
各パトロールエリアの面積は平均して7万5000平方kmである。1回のパトロール距離は6000kmを超える
以上のように、カラカエフRVSN司令官は新型ICBMが開発中であるらしいことを幾度も示唆しています。これについては今年の6月、軍事シンクタンク「戦略技術分析センター(CAST)のブログで15P182「オシーナ-RV」という新型ICBMの開発計画の存在が報じられていました。
オシーナ-RVの主契約社はこれまで固体燃料式のトーポリ-Mやヤルスを開発してきたモスクワ熱技術研究所(MIT)とされており、これはどうやらヤルスの改良型のようです。
一方、これに先立つ2018年にはアンチャール-RVと呼ばれるHGV搭載長距離ミサイル・システムの開発計画が報じられており、これも主契約社はMITとされています。
したがって、RVSNは当面、次のようにICBM戦力の近代化を図っていると考えられそうです。
・ヴォイェヴォーダ重ICBM:サルマート重ICBMに更新(2022年から)
・トーポリ:ヤルス-S(既に配備開始)あるいはオシーナ-RVへ?(2030年代?)
・トーポリ-M:同上
・ヤルス:アンチャール-RVへ?(2030-40年代?)
2022年中に実施予定とされる10回ものICBM発射のうち、大部分は既存のミサイルの発射訓練やサルマートの試行試験であるとしても、一部はオシーナやアンチャールの技術実証試験のようなものになるのかもしれません。
また、カラカエフ司令官は移動式ICBMのパトロールについて非常に具体的に述べています。パトロールエリアの面積が平均7万5000平方kmであるとすると、たとえば250*300kmくらいの領域であり、この中を6000km移動しているというのは新しい情報として興味深いものなので紹介してみました。
【今週のニュース】ロシア外務省がNATO不拡大に関する合意案を公表 ほか
ロシア外務省がNATO不拡大に関する合意案を公表
ロシア外務省
11月頃からプーチン大統領やラヴロフ外相が要求していた「NATO東方不拡大」、「攻撃的兵器の配備禁止」といった諸条件に関する合意案をロシア外務省がWebサイト上で公表した。
同案は計9条から成っており、各条の大要は次のとおりである(筆者による要約)。
ここから先は
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?