第120号(2021年3月8日)第二次ナゴルノ・カラバフ戦争を指揮したのはトルコ軍?
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【インサイト】第二次ナゴルノ・カラバフ戦争を指揮したのはトルコ軍?
行方不明になったアゼルバイジャン軍参謀総長
前回の第119号では、アルメニア軍敗戦の責任問題がロシア製ミサイルの信頼性問題と絡まって政治問題化している状況を紹介しましたが、今度は勝利したアゼルバイジャン側の戦後事情にも焦点を当ててみましょう。
アゼルバイジャン軍のサディコフ参謀総長兼第一国防次官が行方不明になっている、という話です。
サディコフはアゼルバイジャンにおける制服組トップとして、1993年からこのポストについてきた人物。ただ、こちらの記事によると、ロシアと近すぎるとか、アルメニア側に親族がいるとかの噂が絶えず、あまり国民からの評判はよくなかったようです。実際、サディコフはソ連のダゲスタン生まれで義務教育や軍事教育も全てソ連の学校で受けたため、アゼルバイジャンの公用語であるアゼリ語はほとんど理解できず、書類も逐一ロシア語に翻訳させていた由。
まぁソ連という「帝国」の崩壊からまだ30年しか経ていない旧ソ連空間ではこういう話は珍しくないですし、アゼルバイジャンの現大統領であるイルハン・アリエフ氏もソ連の外交官要請機関であるモスクワ国際関係大学(MGIMO)の卒業生ではあります。
ただ、やはり武力機関のトップが自国の言語を喋れないというのは、昨今のアゼルバイジャンにおけるナショナリズムの高まりを考えるとあんまり歓迎されなかったのでしょうし、現実にロシアとの関係が深すぎて作戦などの機密を漏らしてしまう可能性もないではないのでしょう。
この種の「高級軍人が自国よりも旧宗主国の軍隊にシンパシーを覚えてしまう」という問題は、前回紹介したエストニア対外情報庁のレポートがベラルーシ軍に関しても指摘していました。
相次ぐスキャンダル
しかもサディコフは前述のようにロシアのダゲスタン生まれであり、その甥はアルメニア駐留ロシア軍に勤務しているとされます。このため、サディコフはロシアだけでなくアルメニア側にも通じているという噂があり、9月に始まった第二次ナゴルノ・カラバフ紛争に先立つ7月の小規模紛争では、彼を通じてアゼルバイジャン側の計画が漏れた結果として高級軍人二人が戦死したのではないかとか、サディコフが反逆罪で逮捕されたという陰謀論が広がりました。
アゼルバイジャン国防省は、問題のサディコフの甥は30年も前に死亡しており、逮捕の噂も事実無根だと発表して火消しに努めましたが、その後、同人を巡るスキャンダルが再燃しました。
8月に始まったトルコとアゼルバイジャンの合同演習の際、サディコフがトルコ軍の作戦方針に反発して「トルコ軍を侮辱した」という件です。伝えられるところによると、サディコフは「トルコに軍を差し出すなら、私たちの妻もそうなるのではないか?」と述べたとされます。
これ自体はまぁ、下品なあてこすりだとしても、その発言の背景は興味深いものではあります。つまり、大規模な演習(しかもそれは翌月に控えたアルメニアとの戦争のリハーサルだったと思われます)が事実上、トルコ軍の指揮下で行われそうになったことに対して、アゼルバイジャン軍が不満を表明したように見えるからです。
ナゴルノ・カラバフの「外務大臣顧問」であるザルガリャンは、(その背景からして容易に想像されるように)これをトルコによるアゼルバイジャン支配への反発であるとしています。
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