理想の夏
友達は多い方だと自覚している。
学生時代はクラス問わず仲の良い友達がいて
うるさいくらいのムードメーカーだった。
だけど夏に夏らしいことをしたい時
誘いにノッてくれる子はほとんどいなかった。
理想の夏だけが膨らんだまま
叶えられなかった小さな願望がどんどん塊になっていく。
縁日に行く、花火をする、花火大会に行く…
夏を象徴するベタなイベントも
旅館、キャンプ、BBQ…
非日常を体験して色濃く過ごす数日間も
港町の堤防を歩く、桟橋から沈む夕日を眺める…
ちょっとした青春の1ページのようなシーンを切り取るも
1人でするには味気ない。
夏を目一杯楽しむためのプランや願望は溢れるほどにあるくせに
それを叶えられた夏は一度もない。
今年の夏こそは、と毎年思いながら
アイスの当たりは出ないし蚊に刺されたカサブタは汚くあとに残る。
線香花火をしないと夏は終われない!
無駄に気合を入れて力説しても
花火に火をつける行為自体もう何年もしていない。
理想ばかりが膨らむ夏に青春ばかりが取り残されていく。
四季の移ろいの中で何故夏だけがこんなにも主張し、実行できない自分を虚しくさせるのだろう。
線香花火を手にとる隙もなく
暑さは夜の匂いに変わり理想は手のひらをすり抜け、また、夏が過ぎていく。