sense of wonderーープリアラ13話の場合
sense of wonder
レイチェル・カーソンといえば『沈黙の春』の作者として有名ですが、彼女の作品に『センス・オブ・ワンダー』というものがあります。
sense of wonderーー「神秘さや不思議さに目をみはる感性」という和訳が当てられていますが、分かりやすく言えば「なんで? という感覚」になるでしょうか。
子どもたちに宿る「なんで?」という気持ちを失わないでほしい、というのが『センス・オブ・ワンダー』におけるレイチェル・カーソンのメッセージです。世の中には「神秘」で「不思議」なものがたくさんあります。そういったものに対する「なんで?」という気持ちを失わないでほしい、ということです。
しかし、なぜ「センス・オブ・ワンダー」は大切な能力なのでしょうか。なぜレイチェル・カーソンはこの感覚を失わないでほしいと思ったのでしょうか。
だってそうじゃないですか。「なんで? なんで?」なんて問い続けていたら生きていけません。「久しぶり、最近どう?」って聞かれて「『どう?』ってどういう意味? 何について聞こうとしてるの? 最近ってのはいつくらい?」なんて質問したら友達無くしますよ。(余談ですが、ガーフィンケルという社会学者は学生に協力してもらって、「上記のような質問したらどんな反応されるのか」という実験をしています。)
さて、「キラキラ☆プリキュアアラモード」(以下、プリアラ)13話はまさに有栖川ひまりの「センス・オブ・ワンダー」をめぐるお話でした。レイチェル・カーソンが「センス・オブ・ワンダー」を重視する理由は上記著作を読んでもらうとして、ここでは13話に即して「『センス・オブ・ワンダー』がなぜ大切か」という話をしようと思います。
どうしてプリンは丸いのか
有栖川ひまりはスイーツオタクです。滔々とスイーツにまつわるうんちくを語るその姿は、ステレオタイプのオタク像そのものと言ってもいいかもしれません。
どうやら、小さい頃のひまりはスイーツ全般が好きというよりも、プリンが特に好きだったようです。ある日、彼女は思います。「どうしてプリンは丸いんだろう」と。
「丸い容器に原液を流しているから丸いんでしょう?」こうした答えはきっとひまりを納得させないでしょう。だって、三角でも四角でもなく丸じゃないといけない理由になっていないですからね。きっとこうした付け焼き刃の答えでは聡い彼女を納得させることはできないでしょう。
13話の段階ではプリンが丸い理由は明かされていません。どうして丸いんでしょうか。分かりません。でも、そんなことはどうでもいいのです。なぜならば、この問いは「答えるための問い」ではなく、「導かれるための問い」なのですから。
すなわち、「プリンが丸いのはなぜだろう」という問いを契機としてひまりはプリンについて色々と調べて、プリンをより好きになって、そしてスイーツ全般を好きになりました。つまり、この問いは「スイーツを好きになる入口」としての位置づけになっているのです。その意味で「導かれるための問い」なのです。
どうしてチュロスはギザギザなのか
さて、プリアラ13話では「センス・オブ・ワンダー」の持ち主がもう一人(厳密には二人)いました。それはあの小さい女の子です。
どうしてチュロスはギザギザなのか。こちらについてはひまりが答えを教えてくれましたね。要約すると、熱膨張による破裂を防ぐため、です。
が、そんなことはどうでもいいのです。だって、プリアラにおける「センス・オブ・ワンダー」は「導かれるための問い」なのですから。答え自体には特に価値はありません。大事なのは、その問いを立てて、何かしらの答えを得る過程です。
さて、ひまりが答えた後、親子はチュロスを食べますが、ここで大事なことが起きます。なんとキラキラルが大量に発生しているじゃないですか。キラパティでも色んな人がチュロスを食べていましたが、こんな量のキラキラルは観測されていません。なぜでしょうか。
チュロスの話を聞いて、今まで以上に美味しく感じる、と女の子は言います。そう、同じスイーツを食べても、食べる人の心持ち次第で発生するキラキラルは変化するのです。「スイーツを食べる」という経験の質が変化するのです(12話でお父さんが身を挺して守ろうとしたケーキを食べたいちかのことを思い出してください)。
きっと女の子はチュロスの不思議を知ることで、もっとチュロスのことを好きになったのでしょう。そして、その「大好き」の気持ちが「チュロスを食べる」という経験の質を変化させたのではないでしょうか。
「センス・オブ・ワンダー」は「大好き」へと導かれるための問いであると言いましたが、その「大好き」を経ることで経験の質が変化するのです。それはもっと大げさに言えば「世界認識が変化した」ということもできるでしょう。
「大好き」が立ちあらわれるために
以前、スマイルプリキュア27話を題材に、みゆきのお婆ちゃんの宝物はなんだったのか、という記事を書きました。詳しい内容は記事を読んでもらうとして、一応の結論として、「生活に裏打ちされた世界へのまなざし」がお婆ちゃんの宝物だ、と述べました。
実はこの話も「センス・オブ・ワンダー」と通底しています。たとえば、山から突風が吹いた時、「なぜこんな突風が吹くのだろう」と問いを立てます。そして、みゆきやみゆきのお婆ちゃんは「天狗がうちわを扇いだからだ」と結論しました。
何度でもいいます。プリアラにおける「センス・オブ・ワンダー」は、「答えるための問い」を立てるものではありません。そしてそれはスマイルプリキュア27話でも同様です。大事なのは「天狗がうちわを扇いだからだ」と結論することで、世界が「天狗がいる世界」として認識されることです。そして、上述の記事にも記載しましたが、この世界認識こそがみゆきのお婆ちゃんの宝物にほかなりません。「センス・オブ・ワンダー」を通じて宝物を手に入れたのです。
これはひまりや女の子も同様です。「プリンはどうして丸いんだろう」という問いを通じて、ひまりの世界に「スイーツ」が「大好きなもの」として立ちあらわれました。「チュロスはどうしてギザギザなんだろう」という問いを通じて、女の子の世界に「チュロス」が「大好きなもの」として立ちあらわれました。
さて、冒頭の問いに戻りましょう。「『センス・オブ・ワンダー』がなぜ大切か」。ここで結論を出すとすれば「世界に『大好き』が立ちあらわれるために大切だ」と答えることができるのかもしれません。「なんで?」を繰り返すことで「大好き」に導かれていくのです。「何か」が「大好きなもの」として私たちの世界に立ちあらわれるのです。その入口として「センス・オブ・ワンダー」が重要なのではないでしょうか。
冒頭でも述べましたが、私たちの多くは日常生活を送る上で「センス・オブ・ワンダー」を封じ込めています。しかし、プリアラ13話を見ると、それは何やらもったいないような気がしてきます。
なんせ「大好き」は原動力でマストアイテムなのですから。
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