カワイイファクトリーは何をしているのか
こんにちは。エディトリアル・クリエイティブとして執筆と編集を手がけ、ベーカリーカフェを運営しているカワイイファクトリーです。
……と自己紹介すると、え? どういうことです? と尋ねられることが多いです。
私たちにとって本をつくること、パンを焼くことはつながっています。
革新的で、本質的で、誠実なものをつくり、多くの方と人生を楽しむことを分かち合いたいと願っています。
カワイイファクトリーがやっていることは……
■編集
刊行物の企画、編集制作。また印刷までの全工程をディレクション
■執筆
クオリティと読みやすさをモットーに取材から執筆、構成まで
■展覧会の企画プロデュース、イベントの立案や構成
展示キャプションや広報制作物のテキスト執筆も
■出版
自社レーベルトゥルーリングでアートブックを出版
■ベーカリーカフェの運営
現在に至るまでのストーリーは、以下をお読みいただけると嬉しいです。
本をつくる
アートとデザインを領域に書く、編む
映像企画会社のプロデューサーからフリーランスライターになった原田 環と、情報誌『シティロード』の美術担当編集者からフリーランス編集者になった中山真理によって、1999年に結成。
カワイイファクトリーは編集・執筆を手がけるクリエイティブ・ユニットとしてスタートしました。
ワコールアートセンターの季刊広報誌『Spiral Paper』の編集業務が最初にご依頼頂いた仕事です。
以後、アート(現代美術、西洋美術、日本美術)の分野を専門領域に、雑誌への寄稿、雑誌特集ページの編集、インタビュー、ムックや単行本、展覧会図録などの企画編集制作を手がけてきました。
2003年、アートディレクター佐藤 卓さんのプロジェクト『デザインの解剖 3』の取材・執筆に携わったことをきっかけに、デザインの分野でも執筆、編集、展覧会企画、コンテンツ制作に携わるようになります。
アートブックの出版
2009年に出版レーベル True Ringを立ち上げました。
True Ringは日本在住のアーティスト、写真家、デザイナー、建築家などのクリエイターの作品を美しい1冊の本に編み、国内外のアートファンに届けるためのプロジェクトです。
企画、作家および装丁家の選定、構成と編集作業、販売まですべてのプロセスに関わって、これまでに9冊を刊行しています。
文章を書くこと、印刷物や本をつくること、WEBであればコンテンツをつくることにおいて、私たちが大切にしているのは、ものごとの本質を見極めて適切に伝えることです。
それもできるかぎり気が利いた伝え方をして、見た方の心に残るものを作りたい。
ふたりで共同作業をすることは、議論や検証を繰り返すことです。だから、ひとりよがりにならずに本質をすくいとり、ストーリーや印刷物や本に落とし込むものづくりを徹底することができます。
パンをつくる
ないなら、自分でつくってしまえばいいじゃん!
2014年、東京都中央区八丁堀、亀島川のほとりにベーカリー&コーヒースタンド Cawaii Bread & Coffeeを開店しました。
何度も聞かれます。「いったいなぜパン屋を始めたのですか?」
思いついたのは原田でした。
2011年に八丁堀に引っ越したのですが、欧米を旅して知ったクロワッサンやバゲット、ワインにあうパンを売っている店がこの街にはなかった。ない、ないと思いつめるうちに、じゃあ自分で作ってしまえばいいじゃんという思いに至ったのです。
当時の仕事場に通う道の途中にあったビルの1階が空いているのを見つけ、物件を確保。
西沢立衛建築設計事務所にリノベーションをお願いしました。
プロデュースをしてくれるベイカーさんも見つかりました。
国産小麦100%、自家培養発酵種、可能なかぎりオーガニックな材料でつくるパン――計量から始める、いわゆるスクラッチベーカリーをやろう。
そうとなればおいしいコーヒーが絶対に必要だ。原田が連続レクチャーを受けていた京都の焙煎家、オオヤミノルさんにお願いして、珈琲豆をパンにあわせたダークローストに調整して焙煎してもらうことになりました。
希望と理想にめらめら燃えてオープンにこぎつけ、たくさんの雑誌から取材していただいて、パン+コーヒー屋をやるという私たちの冒険は、なんとか船出したかに思えました。
しかし、異業種参入がそう簡単にうまくいくはずもなく。
あり得ない選択でベイカーに
半年もたつと最初の挫折が訪れました。初代ベイカーが退場してしまったのです。
2ヶ月後、自家培養発酵種と国産小麦を使うパンを焼けるベイカーがようやく見つかりました。彼は昭和のパンが好きな庶民派で、当店はあんパンやカスタードパン、ベーグルなど50種以上のパンが並ぶ昭和系のベーカリーカフェになりました。
2018年、その彼が独立することになり、またしても窮地に陥りました。何度面接をしても、よい出会いがありません。絶対にあり得ない選択をするしかないところまで追い詰められました。
原田がベイカーになるという最後の手段です。
ベイカー独立までの8週間、朝5時から夕方4時過ぎまで猛特訓の毎日が過ぎ、そしてアシスタントベイカーと一緒に必死でパンをつくる日々が続きます。
ついに八丁堀サワードゥができた
2019年、ひととおりのパンを作れるようになった原田は、どうせならすべて自分のつくりたいパンに変えようと、リキッドタイプの自家培養酵母(サワードゥ)の開発に着手。この間、編集業は主に中山が担当していました。
ようやく納得のいくパンが焼けるようになったのは、種つぎを毎日続けて4年が過ぎた2023年です。水と小麦と塩だけでスタートした酵母が、八丁堀に生息するさまざまな種類の酵母菌をとりこんで一大コロニーとなり、安定した発酵種に成長したのです。名付けて「八丁堀サワードゥ」。
現在は、角食を除くすべてのパン生地にサワードゥを加え、国産小麦の旨みを引き出した穏やかな酸味と食感の良いパン、パンと対等なクオリティのコーヒーを提供しています。
アシスタントのベイカーも成長し、2024年現在は原田の仕事はベーカリーと編集業が1.5:1の比率に落ち着いています。
亀島川はいま「かわてらす社会実験」が構想され、未来に向かって魅力が増しています。カワイイブレッド&コーヒーを、川を楽しむことができる街のサードプレイスに成長させていくことが目下の目標です。
パンと薔薇を届けること
いわば勢いではじめてしまったベーカリーですが、原田が実際にベイカーとなりパンを焼くようになって、はっきり見えてきたことがあります。
私たちは、パンと本をつくっているということ。当たり前なのですが。
パンと薔薇という言葉があります。
レベッカ・ソルニット『オーウェルの薔薇』(岩波書店)によると、この言葉は1912年に米国マサチューセッツ州でおこったストライキに由来しています。工場労働者3万人が参加したストライキの幟に「パンを私たちに与えよ。薔薇を私たちに与えよ」と記されていたことから「パンと薔薇のストライキ」と呼ばれ、この言葉を織り込んだ詩が書かれ、歌になって全米に知られるようになったそうです。
身体と心の糧、その両方をつくっています
パンは身体の糧を、薔薇は精神の糧を表しています。生きていくためには、身体的に満たされるだけではなく、それを超える何かが必要です。それは心、想像力、精神、五感、アイデンティティといったもの。薔薇はそれらの表象なのです。
身体に活力を与え、かつ負担にならないパン。
心を刺激し、あるいは落ち着かせるテキストと本。
私たちがつくっているのは、身体と精神の糧となるもの、両方なのです。
生きることを支える、当たり前すぎて忘れがちだけれども美しいものを、これからもつくっていきたいと思います。
今日も、あなたにパンと薔薇を。