#2 急転直下の一日
【注釈あります】ところどころ(※)がついているワードがありますが、一番下に注釈を入れています。
この日は朝からカフェでまったりノマド
繁華街から少し外れたところにある都会の町医者(結論から言って、すごくいいお医者さんだったので名前を出してもいいのだけれど、まぁまだこの後どうなるかわからないので、一応伏せておきます。)で、最近開業したばかりの泌尿器科に決めました。
決め手は、ホームページにその症状についての対応が可能であると明記していたこと、何十件かあったグーグルのレビューのうち多くが普通のちゃんとしたレビューだったことからと、周りでそれ以上の情報を得られなかったからです。
最初からがんの可能性をもっと重視していたら、いきなり大きな病院にいていたと思います。可能性はちらりと頭のどこかに置いてはいましたが、そうではない可能性の方を採用していましたね。
このあたり、昨日書いた保留癖かもしれない。
というわけで、とりあえず病院の近くのカフェで待ち時間の間仕事をすることにした。朝一のネット予約で、予約開始すぐに入れたのにもう20番目。しばらく時間がかかりそうなので待つことに。
朝、そこに向かう電車で偶然知人にあう。
今から事務所と答えたけど、その時は本当に受診後事務所に行くつもりだった。
そう、つもりだった。
その日はそうはいかなくなるのですが、この段階ではつゆ知らずです。
病院からも近い、高架下の某どこにでもある有名フランチャイズのカフェの二階席はがらがらで、結構快適でした。
コーヒー飲みながらパソコンカチャカチャ。
ノマドワーカー?
一時そんな言葉はやりましたが、これもこの仕事ならではですね。
なかなか順番が回ってこない。仕事は進むのでまぁいっかという感じで待っていましたが、さすがに余裕を持っていたはずの午後から約束がちょっと心配になってきた。
当然この時は次のアポに間に合う気満々だった。
そんなアポなどブッチするしかなくなるとはつゆ知らず。
そうこうしているうちに、携帯アプリでチェックしていた予約順もだいぶ近づいてきたので診療所へ移動。ちょっと早かったけど、初めての病院だし、余裕をもっていった。
そしたら、外まで人が並んでるじゃないですか!!
あれれ、これはどうなるんだ?
そこからさらに待つことに。
なかなか順番まわってこない。
これはもう、次のアポ、ダメなんじゃないかなという時間になってきた。
朝九時に予約入れて、もうお昼が近くなってきた。
まいったなー。
薬もらったりするのまってたらどうなる?
オンラインの打ち合わせだからまたカフェに戻るか?
などと考えているとようやく順番が回ってきた。
薬もらうどころか、そんなな話じゃなくなるのもつゆ知らず。
ハンドスキャナーでふぐりたんを撫でてみれば
まずは検尿してといわれて、コップにおしっこ取ってまたしばし待つ。
なんか薬か注射で楽になる可能性の方が高いと思っているので、まだ余裕です。そしていよいよ診察。
ベットに寝かされて、ズボン脱いでくださいと。
あぁ、おっさんの先生でよかった。
マスクしているので年齢よくわからないけど、僕より若いか、せいぜい同世代くらい。さばさばした感じだけど、インテリっぽさもない、気さくな感じの先生。
最新機器はこうなっているのかと思ったけど、ハンドスキャナーみたいなのでぼくのおふぐりをナデナデ。するとモニターに何か写ってるっぽい。
さぁ、なんだこれは。
何かの炎症かな?
お薬で直るんでしょ?
そんなことを期待していると、
「すぐに大きな病院で診てもらった方がいいですね」
「どこか心当たりありますか?」
「なければすぐ紹介状書きます。」
「連絡してなるべく早く診察してくれるように言います・」
などと言い出しやがりました。
あらら。
これは、あかんやつやん??
「ここの簡易検査で見る限り、大きな転移は内臓にはなさそうやけど、正確なことはわからない。」
「とるのは3~4日の入院でできると思う。」
「とりあえず採血しておきましょう。」
などなど、追加で色々な情報がふりそそぎながら、診察終了。
転移の可能性だと?
おいおい。これは、もしかして、打合せ遅刻だな。
と、まだその段階では、昼からの打ち合わせをどう間に合わせるか考えていた。パソコンがさっと出せる場所にいければ間に合うなとか思っていた。
そんなことじゃなくなるんだってばよ!
今から行けますか?
もう一度診察室に帰ったとき、先生から言われた。
今から行けますか?
今から?
今?
可能性の話をしているのか?
そりゃ、可能性はいつだってゼロじゃないさ。
「予約いっぱいで、でも今日なら今から来てもらったら見れると言っています。」「今日無理ならもうちょっと先になる。」
いやいや。
いやー。
えーーーー。
いや、これは実行する話をしている。
ここで可能性を議論しても仕方がない。
保留不可!
さすがの僕も、この状況、保留はできません。
行きます。
そういうしかなかった。
結果的に、先生のこの対応はすごくよかった。
これには感謝です。
その場で紹介状をもらって、また少し待って支払いをすますと僕は、本当にその足で大きな病院へ直行しました。
ご飯も食べずに。(さすがにそんな気分にならない。)
電車に乗って移動しながら打合せ先に事情をメッセージ。
そして、大きめの病院へやってきました。
この病院も現在進行形なので名前は伏せておきます。
とりあえず、言われたとおりに総合受付で紹介状を見せると・・・・あ、どうしよう、どこまで書いていいかな?
あんまりそのまま書くとよくないよね。
面白エピソードなんだけどなぁ。。。。
ちょっと、ごまかしながら書きますね。
さて、ついてみると病院はガラガラ。
通常の外来診療時間の後のようでした。
本当に緊急で見てくれるところにねじ込んでくれたんですね。
ありがたや。
何年も前に子供の通院について行って以来の大病院。
泌尿器科、採血、レントゲン取るとこ、CT取るとこ、あちゃこちゃへ。よく言われる通り、病院の外来って健康じゃないと無理って実感。
検尿もちょっとピンチだった。
さっきしたところなんだもん。
本当にすぐ来たんだから。
けっこう疲れながら一通り検査を終えて。
いよいよ泌尿器科での診断は・・・
この段階で、切除確実、入院確実は覚悟していました。
片玉さんです。
アントニオ(※1)みたいに同じところをぐるぐる回るようになっちゃうんです。
まぁでも、爆笑問題の田中さんも元気だし。
なんて思ったりはしていました。
で、告げられたのが・・・
明日から入院できる?
でた。
きました。
またですよ。
また可能性の話ですか?
そりゃ、いつだって可能性はゼロじゃないですよ。
可能かどうかで言われれば、不可能じゃないですよ。
「それでも、と言え」
とマリーダ(※2)は言ってくれない。
そう。これは可能性の話じゃない。
決断の話だ。
実行の話だ。
また同じことを言われる。
「明日からならすぐできる。」
「それを逃すと先になる。」
なんだろう。
完全にダメなセールストークじゃん?
50年ひねくれたおっさんに、このトークは通用しないぜ。
とは、いかない。
ベットされているのは命だ。
そう。
目の前にいるのはダービー(※3)だ。
この賭けは・・・できない。
いや、もうそれは、選択肢とは言わないじゃないか。
わかりました。
入院します。
そう答えるしかなかった。
そこからはさらに入院手続。
もう明日からだから今日するしかない。
そして、明日以降の予定の調整。
家族になんて話そう。
「ガン」ってけっこう破壊力あるワードだよね。
そういえば、明日はあの予定が。
明後日はあれが。
「順調にいけば週末には退院です。」
とは言ってくれていたので、今週の予定をとにかく整理しよ。
「がんをとってみて、数値が下がればいいけど、下がらなければ他にも転移しているから抗がん剤治療をお勧めすることになります。」
おや、おや。
延長戦もありえるのか。
まじか。
え? 3カ月はかかる?
まじやばくね?
ついたのはお昼・・・2時前だったかな?
結局この、病院を出たのは5時過ぎ。
そうこうしているうちに、
次のアポも駄目になる時間になっていた。
そうだ、もう一つアポがあったんだ。。。
それもお断りを入れて、病院を後にした。
あぁ、明日から入院だよ。
まず、かえって何しよう。
いや、仕事しないとな。
一日ほっつき歩いただけになっちゃったので、とりあえず家に帰って仕事しないと。でもその前に家族に話さないと。
ポジティブの呪文をかける
ここで僕は考えた。
どう話せばどう伝わるか?
それがどういう結果を招くか?
保留癖の私だが、選択肢がなくなってからは案外粘り強いです。
負のエネルギーをためないと発動しない呪いの呪文のようなものです。
どう考えても、僕の言葉が一番結果を左右する。
それは「がん」というワードに真実性を持たせるのは僕自身だからだ。
僕がそれをどう価値づけするかで、何もかもが変わって伝わる。
言葉に意味を持たせるのは人間でしかない。
言葉は定義以上の意味を持つ。
それが価値観であったり感情であったりするわけだ。
僕がこの言葉をどう家に持ち帰るかで、家の雰囲気がすべて変わってしまう。
さて、僕がこう考えたからなのか、そうではないからなのか。
自分でもよくわからないが、実は全然ショックではなかった。
後で先生に「驚きませんね」って言われた。
これについては後で考えてみて、もし家族がなったらこんな風にはいられなかったと思う。それは自分の決断以外にも不確定要素があって、いくらでも選択肢が出てくるからだ。不安になる。気持ちが定まらなくなるだろう。
でも、自分が当事者になってしまえば、不確定要素は案外少ない状況なんですよね。僕が主体的になって状況コントロールできないんです。治療という行為があって、それが終わるまでは僕はまな板の上の鯉です。
もしかすると病院を選択するというフェーズがあれば違ったかもしれませんが、今回はそれもなかった。
もう、決まった方向に進むしかない。
そこでのベストを考えればいい。
その状況は、僕にとってはわりかし迷わないで済む状況なんです。
もう一つは、抱えた問題が社会的にも、僕に優先権がある内容だっていのも大きいと思う。優先権と言ってしまうとおかしいけど、たとえば今からがんの手術に行くんです解けば、たいていの人は邪魔しないでしょう?
そういった心理的な負荷の低さも手伝っているかもしれません。
とにかく僕は、
ポジティブにいくことにした。
この問題をクリアして、この経験を糧にして、パワーアップすることにした。
それこそ、可能性の話だ。
このポジティブにいける可能性という呪文を自分にかけた。
僕にしては珍しく、とでもいおうか、この自己暗示ははまった。
これも今思えばですが、色々ダメな生き方をしてきたりもしたけど、ガンになったよと言わなくっちゃいけない相手が何人もいることが、この呪文に力を与えてくれたんだと思う。
家族であれ、仲間であれ、報告をするたびに呪文は強化されていった気がする。ある種の言霊というべきものか。関係性が元気玉みたいに呪文にエネルギーを送ってくれたんだと思う。
僕の中には今でなかった、
ポジティブシンキングがここに爆誕した。
僕は結局、楽観主義ではあってもポジティブではなかった。
そのポジティブさを得た。
少なくとも、抗がん剤の副作用の吐き気を無視してこんなノートを書こうと思うくらいのポジティブさを。
その日は勢いで元気に家族に報告。
うまく取り切れれば一回の入院で終了。
週明けの検査結果次第では延長戦もあり。
そこで延長戦になっても、僕はリモートワークのできる仕事。
むしろリモートワークを極めてやると宣言。
これを機に、50にしてアップデートすてやると。
そう決めて、僕は案外すっきりした気持ちで明日の入院へ挑むことになった。そんな明日、ちょっとした試練が待っていた。
つづく。
注釈
※1 アントニオ・・・じゃりン子チエに登場する猫。地域一のボス猫だったが、主人公チエちゃんの飼い猫的野良猫の小鉄との決闘で片玉をとられてしまい、決闘後は喧嘩が弱くなってしまい落命する。片玉をとられて同じところをぐるぐる回っていたそうです。ちなみにじゃりン子チエで小鉄と並んでいる虎猫はこのアントニオの息子、アントニオJrです。
※2 マリーダ・・・機動戦士ガンダムUCの登場人物。主人公バナージはユニコーン(可能性の獣)の名前冠するガンダムに搭乗する。マリーダは可能性をうみだすのは人の意志(バナージの意志)だといい、諦めそうになるバナージに「それでも(まだ可能性はある)、と言い続けろ」と諭す。めちゃめちゃいいシーンのセリフです。
※3 ダービー・・・JOJOの奇妙な冒険第三部の登場人物。JOJOの世界ではスタンドと言われる特殊能力を持った人が出てくる。ダービーはギャンブルに勝と相手の人間の魂を生きたままコインにしてしまうというわけのわからない能力を持っている。能力でギャンブルをするわけじゃないので、ギャンブルが普通に強い人にしか使えない謎能力ですが、ダービーはこれで主人公たちを追い詰めていく。