花の名前を
今日,近所のスーパーでお盆用のリンドウの切り花を見かけて,その花の話をしたある友人を思い出した.
数週間前,熊本出張の際に車窓から園芸用のリンドウ畑を見た.
物珍しくて熊本で農業に関する仕事をする友人にその話をしたところ,大分との県境に位置するその地域はリンドウの一大産地であること,熊本の県の花がリンドウであることなど詳しく教えてくれた.
夏の終わりに山で見かけるリンドウが,夏場に民家の脇に生えているのが不思議な光景で,また社会人になった友人が専門知識を身に付けている様子が印象的で,強く心に残っている.
あの農地で育ったリンドウが遠く離れた地のスーパーマーケットまでやって来たのだろうか.リンドウの由来に思いを馳せてしまった.
わたしには花の名前について,いくつかの思い出がある.
大学でアウトドアをしながら生物観察(植物がメイン)をするサークルに所属していたのも大きく影響しているのだろう.
サークルのKN先輩に教えてもらった「ウメバチソウ」.
一緒に山を歩いていた時に,とてもかわいいつぼみを見つけて思わず先輩に名前を尋ねた.植物に詳しい先輩の一番好きな花の一つ,と教えてもらい更に愛着が湧いた.
沢沿いの湿った場所で多く見かけるこの植物は,平地がどんなに暑くても,一歩入れば感じる山特有の涼しさと記憶の中で強く紐づいている.
その日撮ったウメバチソウの写真は,5年以上わたしのLINEアイコンになっている.
「エゾエンゴサク」「ナニワズ」「マイヅルソウ」「ニリンソウ」…….「春先に真っ先に咲くこれらの花はスプリングエフェメラルって言うんだよ」と教えてくれたSY先輩は,トレーニングなんだと笑いながらいつも登山靴を履いていた.わたしの少し珍しい苗字を,「地元に同じ地名があるから」とすぐに覚えてくれた.あの先輩は,大学の博士課程で高山植物の生態について研究しているそうだ.
昔読んだ有川浩の小説に「恋人に花の名前を教えて,別れた後もその花が咲くたびに自分を思い出させるようにしたい」といった趣旨の文章があった.
これは以下の川端康成の小説からの引用らしい.
ああ正に,わたしのことだ.
転居やライフステージの変化によって会わなくなって何年たっても,その植物を見かけると一瞬にしてその人とのやりとりが浮かんでくる.
季節が巡るたび,野外を散策するたびに大切な人たちを思い出せるのは,なんと幸せなことだろう.
別に重い友人になりたい訳ではない.
でも大事な人の心の隅っこに,少し居座るのも悪くはないのかもしれない.
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