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昭和の名ブランディング〜Music Player ②〜3分で読めるブランドのチカラ (62)

○ 自分の最初のMusic Playerはラジオ。媒体ソフトは電波
○ 高校時代にはレコードプレイヤー、ラジカセ双方所有してたのに、ブランドの記憶なし。
○ 脳内にブランドイメージが存在するのはナショナルのラジオ、World BoyとSonyのWalkmanだけ
○ 「世界と繋がる」と「自己解放」がそれぞれのコア・ブランドイメージ


  中学生時代に、高校受験に必要なラジオ講座を聴かねばならぬと親を説き伏せて(脅して?)買ってもらったラジオ (ナショナル、現パナソニックのWorld Boy)が私にとっての最初のMusic Playerだったと前回書きました。ラジカセはまだ高くて手が届かず、専らリアルタイム聴取しかしていなかったわけですね。

  高校の頃はラジカセにステレオプレイヤー双方を持っていて、住んでいたところから程近い駿河台にあったディスクユニオンや秋葉原の家電量販店で海外ミュージシャンのレコードをなけなしの小遣いをはたいて買っていたことを思い出します。

  今と違って、音楽ソフト、レコードですね、これは貴重なもので、まずは店頭でお目当てのLP※をレコードプレイヤーに掛けてもらい試聴して、吟味の結果購入して、帰宅してからドキドキしながら全編を聴くのです。いまのひとはLPというとまずLanding Pageを思い浮かべるんでしょうね。☺️

  理由は思い出せませんが、なぜか洋楽ばかり聴いていました。ハードロックが全盛期を迎えた頃で、ステレオプレイヤーの前に座り込み、大きなヘッドホンでLed ZeppelinやDeep Purple、Mountainなどの大音量ロックを忽然と聴いていましたね。Led Zeppelinは特に予想のつかない音楽を展開してくれ、まさにドキドキして新曲のImmigrant Songなんかを聴いて「なんじゃこりぁ!」と鳥肌を立てていたんです。


  さて、それだけ貴重な音楽リスニング体験だったのに、music player、再生機器については製品銘柄が全く思い出せないのです。
  これってつまりは、機器としてはそこに間違いなくあったのですが、ブランドではなかった、私の脳にはブランドイメージが形成されていなかったことに他なりません。

  実は私の脳内ブランドとして存在するmusic playerは、広告受験勉強時代のラジオWorld Boyの次は、高校時代、大学時代の8年間(大学で1ヶ年留年したんで8年間。😀)をすっ飛ばして、社会人になってからのものになるんです。

  それはWalkmanです。SonyのWalkman。

  カセット再生機器は録音再生するもの、つまりカセット・レコードプレイヤーというのが常識だった1979年に、まさに独創的な再生オンリーのこのステレオカセットプレイヤーは登場しました。

  衝撃的という言葉がぴったりの新製品。ほんとに「どーいうこと?」っていうのが正直な感想。

  タイトルにも付けましたが、Music Playerっていうのは、室内に鎮座するものでした。それがラジオであろうが、ステレオセットであろうが、ラジカセであろうが・・・

  外部では聴けません。決して。

  いつまであったのでしょうか、昭和の時代にはクラッシック音楽を高音質で聴かせる「名曲喫茶」や、ジャズ音楽を聴かせるジャズ喫茶というのがいたるところにありました。

  洋楽ロック漬けの私も、気持ちを落ち着けたい時には当時通学に使っていた御茶ノ水駅の近くにある、名前は忘れましたが、名曲喫茶に行き、香り豊かなコーヒーをちんまりと頂いていました。

  その名曲喫茶もジャズ喫茶も外部じゃありません、家ではありませんが、れっきとした室内なわけです。

  話をWalkmanに戻します。

  外を歩きながらカセットに録音した音楽を自分だけで聴く。今は当たり前になった外で自分だけの音楽を聴くという行動様式は全く、影も形もなかったわけです。

  外でヘッドホンをして何かを聴いている人がいたとしたら、それは小型ラジオから片耳イヤホンで、競馬中継を聴いているか、株の値動きをチェックしているおじさん、と相場は決まっていたのです。

  外でヘッドホンをして自分だけでステレオ音楽を聴く。なんと斬新な! ほんとにびっくりしたんです、笑わないでください。

  他の人からどう見えるんだろうか? そんなことして馬鹿じゃないのかとか思われないだろうか? とあれやこれや買ってもいないのに心配した記憶があります。

  Walkmanの開発は実はSonyの創始者のひとり井深大氏が、出張機内で音楽を聞きたい、再生機能さえあればいいからということで、自分用に開発を社内に頼んだのがきっかけの由。できたプロトタイプを見たあの盛田昭夫氏が「これはいける」と直感して正式に商品開発を進めたそうです。

  アイデアマンの盛田さんは、プレスリリースを通常ではなく、都内の某公園に雑誌メディアを招待して行い、Walkmanを楽しむ若い男女の姿を披露し、雑誌タイアップの大量出稿をゲットしたそうです。

  新製品ブランディングはPRですべき、と言う米国の著名なブランディング・コンサルタントのアル・ライズさんの主張を本ブログ其の21でご紹介しましたが、遥か以前に盛田さんはこれを地で行っていたわけですよね。

  まさに盛田氏はWalkmanをただのMusic Playerではなく、自分だけの音楽を室内から外に連れ出して楽しむという、若者のライフスタイルとして訴求したんです。

  ブランド付加価値は「解放」にあったのだと思います。音楽を狭い室内から解放する、自分を解放するというダブルミーニング。

  もちろんステレオ音楽を高音質で再生する技術の凄さはあったのですが、それはあくまでもU.S.P.※の範囲です。それを超えた先にある、人を共感させるブランド価値は「解放」だったと思うんですね。

  発売の翌年、社会人になったばかりの新入社員の私はWalkmanを買いました。確か初ボーナスを使ったと思います。

  大手広告代理店の熾烈な業務の毎日でストレスマックスだった私は、通勤の道すがらWalkmanで好きな洋楽ロックを聴いてひととき「自己解放」をしていたんだと確信します。

  落ち込んだときは、というか先輩にしごかれて殆ど毎日落ち込んでいましたけど、そんな時は確かLed Zeppelinの移民の歌を聴いて自分をチアアップしていたように記憶しています。それかイージーライダー※の主題歌に使われたSteppen WolfのBorn to Be Wild。だったかな。

  今スポーツ選手が試合の前にスマホで勝負ミュージックを聴いているのと同じですね。私は40年前ですけど。☺️

 私はWalkmanの写真を見ると、仕事も半端で叱り飛ばされていた、情けない若手社員時代を思い出し、切ない気分になります。音楽はひとの思い出の断片と密着しているんですね。


最後に。

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※注釈
○ LP・・・Long Playing Recordの略です。直径30センチで片面20〜30分の録音。これに対比して短い録音時間のシングル盤があった。
○ U.S.P. ・・・Uniquie Selling Proposition の略語。自社製品独自のfunctional benefitの定義と約束を意味するマーケティング用語。
○ Easy Rider・・・1969年の米国映画。デニス・ホッパー監督の「アメリカン・ニューシネマ」と言われた新しい潮流を代表する映画で、ザ・バンド、ジミー・ヘンドリックス、ステッペンウルフなど全編を当時を代表するロック・ミュージックが流されている。主役にはピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルソン。



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