鬼灯の種こそ惜しまじ雲のまに
対戦格闘ゲームにライバルは不可欠だ。
たとえ技を競い合う友人に恵まれず、ひたすらCPUと対戦するのみであろうと、何がしかの仮想敵なくしてモチベーションは続かない。
(俗世間からの解脱は1日にして成らないので)
そして、ストーリー中に織り込まれたライバル関係もある。
対決要素の強いジャンルには、両者が対峙して睨み合うアートディレクションがよく似合う。格ゲーならではの、使用キャラの選択カーソルは主人公ならびにライバルを起点とする暗黙の了解もある。
作品がシリーズを重ねるなら、ライバル関係にボスが加わる三角関係へと段階を進める。アートディレクションとして、ボスを中心とした集合写真様式が典型例となる。
誰がボスへの挑戦権を手中にするか。最終勝者はまさにプレイヤー次第。新たな敵が現れるたび三角関係が更新され、物語が進行する。少年漫画を彷彿とするリレー展開は、人生の縮図ですらある。(SNSが旧友のフォローを勧めてくるが時の流れは否めないので)
そう、三角関係といえばラブコメである。ツンデレ幼馴染との痴話喧嘩に新ヒロインが続々と横入り。すなわち、格ゲーの物語展開からは、らんま1/2に類似した生態を発見できる。
ライバル関係は謂わばエンジンシャフトのようなもの。物語に速さを、ないし強さを与える。
その多くは物語展開の負荷に耐えきれず破断するが、負けヒロインからしか得られない栄養素は我々を魅了する。
友誼は望まれざる永遠なのか。格ゲーは麻薬などと大それたものではなく木の根をかじる如き荒行(SNS化したソシャゲを仰げども格ゲー越しの友情はスーパードライだし今どき流行ってないあたり丸ごと負けヒロインみ)なのか。
ならば諸賢さんもご承知あれ。初代サムライスピリッツにおける日本刀の使い手は数えて13キャラ中の約3名也。
それがいかなるジェンダーフリー概念を含意するものか。
そう。仮に全体の3/4が非サムライであろうと覇王丸&橘右京という至高のサムライバル関係こそゴウランガ。両者はサムライそのものであり、戦いを通じてスピリッツを交わすので標題に偽りないですね?
巌流島めいた浜に対峙する両雄。上手に八相、下手に居合。まさに陰陽の立ち合いがギャラリーに従えるは荒波。シリアスな世界観と、のっぴきならない鏡合わせは誰の目にも明らかじゃろ。
人は見かけによらないものだが、優れたゲームの画面表現はテーマと深く絡み合う。
遡れば冒頭、オープニングに引かれる葉隠の一節。
『武士道とは死ぬことと見つけたり』
続く文言が大きく異なることから、劇中劇もとい、パロディ中パロディの類である。
あえて両雄に倣えば、愛と剣は二律背反と見つけたりするものだ。
覇王丸は名も家も捨て、相思相愛のお静殿すらおっぽって旅に出た。橘右京は座敷牢の安楽と慰めから抜け出でて死出の旅を選んだ。
その通低音に硬派イデオロギーを見て取れる。こと中世において故郷を離れる意味合いは重大で、自らの意思によってであれば尚更と云える。
保守に幸福を求めない傾向はリリース当時の社会意識にも通じるだろうか。俺らの父母、長男すら上京してがちだし。
現代では、富国強兵すら一定以上の犠牲を強いたものと呟かれる。それでも尚、剣が幸福をもたらすというミスリードは形を変え、たとえば自らを切り苛み、大戦後のネットで石を投げ合うに堕ちる。
人は生存戦略から逃れられられられなくなくなくないもの、考える葦である。逃げられないなら逃げなければよい。所詮はギャンブルの類と知りつつ自己実現の一興を果たさんレッツサムライ。
敵中突破の感応は画面の隔たりを超えて時空間を合一せり。時はGET WILD、AND TOUGH。(しかもジェンダーフリーレギュレーションに合致)
……とは言ったものの、右京は圭殿へと密かな想いを寄せてならない。身分違いで死病の身、報われようもない思慕。彼が戦いのうちに求める究極の花とはいったい…… それってあなたの非モテコミットですよね。
自由恋愛からの疎外は江戸時代にも喪のあわれ。痛みすら同じくした没入感はむべなるかな。圭殿にクソデカ圧かけてメンヘラ同士になればワンチャンある。いや違う。
右京には、どこからともなく追っかけシスターズが登場する。ある程度モテてる。彼が爆発すべきかは各自の司法に委ねるが、全くモタないのは情状酌量の余地と見る。
直ちに町娘ズからソソクサ逃げちゃう。圭殿へ、せめてもの義理立てか。はたまた、死病の身を憚る故か。俺に言わせれば女性恐怖症なだけというのがしっくりくる。
ナカーマ(=´∀`)人(´∀`=)?💦
幼くして母と死別した右京の生い立ちが、その人見知り性に説得力を与える。
さらに言えば、次作以降に覇王丸の兄弟子として参戦する牙神幻十郎もまた広義のマザコン風味がある。つまり、職業選択の自由ないし愚行権ないし自己決定権を行使した家なきトリオが結成される形だ。同情するならクレジット入れろ。
覇王丸・橘右京・牙神幻十郎のいずれにおいても結局のところ父親絡みの描写が殆どない。対立軸のモチーフは既に移った。健全なエディプスは健全な家庭環境に宿る以前の問題である。
仕合うを肝心のこと、お静殿も圭殿も毒親も事実上のモブキャラ。自ずとから、アダルトチルドレンズはいかに生きるかにメインテーマが変奏される。(俺たちがパパになるんだよ❤️←それ何てマルナゲ)
まず牙神の無自覚NTRによって右京はライバルの地位を完膚なきまで簒奪された。他タイトルの現地妻にすら余裕で出し抜かれる始末。
ただでさえ寡黙で劇に絡ませにくく、他者との因縁に乏しい右京。かたや、ことあるごと主人公にヤンデレ彼女ムーブをかます牙神。有効間合いが違いすぎる。
覇王丸の我道と牙神の狂気。剣そのものを問う簡潔明瞭な対比は、本編の足りない余白に大幅有利…!
だが、牙神を全力で動かす場合はコンプラ的に危うい世界観になっちゃう。形而上の画風が違う。牙神も、結局のところぼっち属性なのだ。今後、覇王丸の匙加減ひとつで負けヒロインになり得る。
剣ひとすじの覇王丸は、ド天然バトルマニアである孫悟空に相通ずところがある。
悟空が、ベタ惚れベジータを差し置いてクリリンで幼馴染スパーキングしたように、牙神が差し置かれる世界線は十分に有り得た。だが現実に、右京は目の前の人のため剣を尽くした。(夢路殿とか)
血風たなびく相克も、背中越しに交わす剣戟も等しく尊ぇ。しかしシリーズを概観すれば、最も成長した感があるのは右京。俳人としてもそれは然り。右京さんは再三に亘って死ぬこととみつけてきたもんな。さんざん血を吐いておいてマジしぶとい。
それにつけて覇王丸、泰然自若がゆえに巨悪に対して関心が薄い。政治のことがとんとわからぬからフォローでインテリ設定ついてる可能性すらある。ドラゴンボールのない世界線での悟空たち、主人公としては割とクズ?美丈夫という幻像は自重により潰えるばかりでしょうか。
ある時など、ナコルルさんがボスを差し違え様、主人公に成り代わって物語を締めて下さった。希代のヒロイン一時危篤の責は明白であろうともそこがいいんだけどね。ジャンヌダルク的な意味で。補給さえあったら勝つるた。(忖度)
覇王丸の末路は甚だ、プレイヤー各位の想像に委ねられる。しからば、ライバル(特に右京)と仕合いに生きて戻れし。互い違いの因縁なればこそ、生ある限りに。
二十歳過ぎればただの人。比翼無双のライバルもやがてはかませ犬。合点承知でヒロイズムは賭され、メインシャフト抜きに悪路の物語は立ち行かない。
心正しければ他人の剣も我が剣。善一字の下、否応なく社会に組み入れられながらも我々は、あえてサムライスピリッツを選び取る。
牙神さんの開放的な生き様も境地ではあるが、剣ばかりで宿命は解消されまい。もとより全てを望まざる身たれば。
俺はせめて、過ぎたるは既に死せる右京さんが好きです。でも破紗羅さんのほうがもっと好きです⭐️
ぼっち通り越してユーレイ、ナルシー通り越して人格崩壊。やっぱ首斬り破紗羅なんだよな。
圧倒的に当事者性。シンクロ率高すぎて空気。ライバル補正無用のガチンコ勝負。名実ともにイロモノ。支持が薄くて調整が後回しになりがち。そこそこリストラされちゃう。本人からすればマジで存罪に苛まれ続ける以外の何ものでもないし設定ごと不安定な鬼子なんよ。
格ゲー世界のキャラは増える一途。ゲーム容量もまた増える一途。右京のよう負けヒロインが舞台に立ち続ける必至、優しくも美しい悪夢だぁ。
言ってしまえば、破紗羅も我々も地縛霊であるに過ぎないだろう。どれほど上位互換が現れようとも戦わずしての退場は許されず、血で血を洗うのみである宇宙空間の膨張が超光速度へ至るのが先か銀河同士ガッチャンコするのが先かを占うに、カプコンとSNKが同じ筐体に入るようにもなったゲーセンを横目、ご自宅の通信対戦は光が少し遅い現実によって侵食されてゆく。かつてキャラ属性人気ベスト50を10キャラで分配した黎明にはドラフト形式でも1人5個ずつありつけたが、20キャラで行うですら1人につき2^3。薄くなるか被るかの完全2択となる増大した社会保障費により、物語の下方硬直局面は避けがたいからといって今さらライバル関係への世帯課税には戻れないとか何とか黙示録における宇宙終焉シナリオには熱的死が厚く支持されているのでした。
以上、ライバル関係ひいては友情の儚さについて浅学なりにたしかみてみた。架空の人物相手とはいえ関係妄想などウリアッ-上にも格ゲーマーのシンクロ率向上は意義たらぬや諾否のほどを右に。
アートディレクションはしかし、物語構造とそれなりに異なる力学で顕現されていたものでBLは嫌いになっても関係妄想はまぁまぁ有効ゆえに我ありと言えますよね。地縛霊フュージョンに、束の間の生が与えられんことを信じたら性癖がバグることがある点について機会があれば改めて掘り下げます。