みにくいアヒルの子

中学生の頃だったか、仲のいい友達が2人いた。
2人とも背が低く可愛らしい見た目で、派手な子だった。
仮に、アケミとカリンと名付ける。
アケミはツインテールが特徴的な子で、いわゆるぶりっ子の類だった。男の子の前では通常の3倍声が高くなるが、僕と話す時は男口調で声も低い。僕は器用な子だなあと感心していた。顔は特別可愛いわけではなかったが、愛嬌ってのは大事だ。彼氏は絶えずいた。
対してカリンは目鼻立ちがはっきりしていて可愛く、死語かもしれないが、ギャルっぽい子だった。タバコを吸ったり髪を染めたり悪目立ちもしていたが、発言力があり行動力があった。
そして2人とも世話好きで、とろい僕によく声をかけてくれた。

ある時僕たち3人で、クラスの男の子(仮にエイタとする)のお家にお邪魔した。部屋にはエイタともう1人男子がいた。アケミの彼氏だった。聞いていなかったが、多分アケミが呼んだんだと思う。

人の家に上がるのはいつも緊張する。僕はしばらくどこに座ったらいいのかわからず、あっちへこっちへ部屋の中をうろうろ歩いていた。
が、いい加減座んなよと部屋の主に笑われ、カリンにもおいでと声をかけられ、大人しく座った。

本棚の手前にアケミと彼氏、ローテーブルを挟んでエイタがベッドに腰掛けており、そのそばの床にカリンと僕が座っていた。
アケミの彼氏以外、小学校も一緒の幼馴染だ。何となく空気感が合うし、話も弾む。
エイタはクラスでも目立つ男子ではなかった。穏やかに話し笑う、優しい子だった。そういう意味では僕は、多少好意を寄せていたのかもしれない。

カリンの提案だったか、小学校の卒アルを見ることになった。
エイタの部屋にある唯一のテーブルにはみんなで持ち寄った駄菓子が散らかっていて卒アルが置けなかった。何となく、エイタが座っていたベッドで開かれることになる。
見せろ〜とカリンがベッドに寝転がる。本人談だが、エイタは女の子と付き合った経験がない。その時も、声変わりし始めの声が微妙に上擦っていた。
僕はベッドのそばに立ちアルバムを見ていた。いや、カリンとエイタのことを見ていた。シングルサイズのベッドなのだ。
どうも、距離が近い。

アケミと彼氏は既に卒アルに興味をなくし、ローテーブルの向こうで本格的にいちゃつき始めている。
そして、ベッドの方でも何かが始まっている気配がした。
布団を被せたり捲ったり、足が当たったり、肩が触れたり。

すぐに部屋から出れば良かったんだろうか。無い用事を思い出して帰れば良かったんだろうか。
とろい僕は何もできず、ベッドのそばで体育座りをして床を見つめながら、みにくいアヒルの子を思い出していた。
誰が悪いとかではない。僕はアヒルの巣に迷い込んだだけなんだ。
きっといつか、居場所が見つかるはず。
いつか、いつか、と願いながら、僕は自分の膝をギュッと抱きしめた。
しばらくして、僕はそっと部屋を出た。

これが、僕ことみにくいアヒルの子の話。

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