サルワカという個人メディアを250万PV/月にまで育てた方法
サルワカというWebメディアを運営してきた。僕を中心に、数人のライターが記事を書いている。それぞれが別の本業を持っている。あくまでも気ままに更新するメディアだ。
サルワカを始めたのは2016年の12月。
その1年後には200万ページビュー/月を超え、1年半後の今では、250万ページビュー/月を超えた。
ページビュー(PV)はサイトの価値を示す1つの指標にしか過ぎないが、個人運営のメディアでここまで到達できたのは嬉しい。
最近は本業の方が充実してきて、僕はほとんど記事を書けていない。記事執筆に時間をかけたい思いはあるが、それがいつになるかは分からない。
ただ、せっかくある程度メディアを成長させることができたのだから、この経験を共有しないのも勿体無い気がする。
そこで、サルワカというメディアをどのような考えで育ててきたか、このnoteに残しておくことにする。
コンセプトを思いつくまで
もともと僕は個人ブログをやっていた。今思えば薄っぺらいものだったが、そこそこ多くの人に読んでもらっていた。
2時間で書いた記事が10万人以上に読まれる経験をして、Web上のメディアのポテンシャルを知った。目立つことにあまり快感は感じないが、自分の書いた記事が多くの人に読まれるのは刺激的だった。
また、その頃に検索エンジンからの流入の威力を身をもって体験した。言うまでもなくGoogleで上位表示すれば、上位表示されている限り何もしていなくてもサイトを訪れてくれる人がいる。
気分屋の僕からすると、これが性に合っていた。
それから検索エンジンでいかにして上位表示できるのか、徹底的に検証を行うようになった。いわゆるSEO(検索エンジン最適化)だ。
巷で噂されている小手先のSEOテクニックはほぼ全て検証と調査を行った。Googleの初期の論文や、検索エンジンのアルゴリズムに関する論文もいくつか読んだ。また、膨大な数のキーワードで検索を行い、上位に表示される記事の傾向を掴もうとした。
当時、Googleは検索ユーザーが求めているものを、忠実に上位に表示していた(今では少し状況は異なるが)。内容が薄かろうと、信憑性が低かろうと、ユーザーが求めているのであれば、記事の質は必ずしも問われていない。僕にはそのように見えた。
例えるなら、素材にも調理方法にもこだわった高級な懐石料理が、必ずしも誰にでも受け入れられるわけではないということだ。
たとえ同じ値段であっても、身体に悪いものがたくさん入ったジャンクフードの方を食べたい人もいる。
検索ユーザーは調べ物をしているのだから、たいてい1つ1つの記事をゆっくりと味わっている余裕や時間はない。片手間で気張らずに食べられるハンバーガーのような記事を求めていることの方が多いのではないか。
当時のGoogleは、そのニーズを検索結果にそのまま反映させているように見えた。
たとえ、某キュレーションメディアのように、高級料亭から料理を無断で盗み、過激な味付けをし直して我がもの顔で出していようが、ユーザーが求めているのであれば、そちらを優遇していた。
しかし、そのようなメディアを問題視する声は大きくなりつつあり、Googleが対策を打つこと、少しずつユーザーのリテラシーが向上していくことは明白だった。そこで、次に求められるのは
ではないかと考えた。
「信憑性が高く内容は濃いが、理解しづらく、読みづらい内容」を噛み砕き、分かりやすくして極力誰でも受け入れられるようにしたもの。そんな記事には需要があるはずなのに、明らかにインターネットには不足している。
そこで、上の条件を満たすような、作り込まれた記事だけを更新するメディアを始めることにした。
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サイトのコンセプトを明文化する
サルワカでは、サイトのデザインから記事の書き方、構成まで、徹底的にユーザー視点で考えることに決めた。
1. 難しい内容についても分かりやすく
専門的な内容についての記事でも、専門知識がない人が見ても分かるように解説する。
2. ユーザーの問題を最短で解決する
無駄な前置きをしない。長くページに滞在して欲しいからと結論を無理に後回しにしたりしない。
3. 適切な長さの記事を書く
サルワカでその内容に関する知識が手に入り、検索をやめられるのが理想。
むやみに価値の低い情報を入れて、記事を必要以上に長くしない。
4. 図解、イラストを多用
説明が複雑になるときは、視覚的に表現し、直感的に受け入れやすくする。
5. 広告を貼りすぎない
PVあたりの収益を伸ばすのではなく、PVを伸ばす。
6. 読みにきた人にストレスを与えない
読み手が疲れるような派手な表現はしない。派手なアニメーションなども入れない。内輪話なども書かない。
7. 読みにきた人が疲れない配色・レイアウトに
つい長居したくなるような優しいデザインにする。
このような方針でサルワカを運営することにした。
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これらの方針を具体的にどのようにサイト運営に反映させたか、いくつか紹介する。
「おしゃれ」よりも「快適に過ごせること」
Webメディアにとって、デザインは重要な要素だ。しかし、デザインを設計するときには、「おしゃれさ」を優先してユーザービリティを損なうことがないように気をつけなければならない。ユーザーからすると「おしゃれに見えるかどうか」よりも「快適に過ごせること」の方が重要なのだ。
そのような基準を持っておくと、設計をするうえでの意思決定がスムーズになる。例えば「日本語のWebフォントを使うかどうか」について。最近ではものすごく簡単に、Webサイト内の文字をかわいい日本語フォントで表示することができる。
ユニークでかわいいフォントを使うことで、「素敵なWebサイトだ」と印象づけることはできるかもしれない。しかし、ユーザーが最も読み慣れているのは、標準フォントだ。ユーザーに快適に過ごしてほしいなら、読み慣れないユニークなWebフォントは使うべきではない。そう考え、標準フォントを使用することにした。
ユーザーにとって価値のない要素はできるだけ削る
視界に入る要素が増えるほど、各要素に目が行き届きにくくなる。サルワカでは、ユーザーにとっての価値のない要素はできるだけ削ぎ落としていくことにした。
「ブログに当たり前のように備わっているけど、よく考えればいらないもの」も削った。例えば、下の画像は記事一覧のカードレイアウト。
多くのブログでは「記事の抜粋(冒頭部分)」も、タイトルの下に合わせて表示される。
しかし、この抜粋部分に価値のある文章が載ることは少ない。そこでサルワカでは、記事の抜粋を載せることをやめた。代わりに記事タイトルに「内容を判断するのに十分な情報」を盛り込むことにした。
主観が入りやすい部分はA/Bテストで検証する
文字サイズや行間、字間、記事幅などについては、最適解を見つけるのが難しい。そこで、ある程度サイトにアクセスが見込めるようになったタイミングでA/Bテストを行うようにした。値を少しずつ調整して、離脱率や滞在時間などにどのような影響が出るのかを検証していく(もちろんデバイスなどの閲覧環境の差異などは考慮する必要がある)。
このような主観的な項目について意思決定をするときには、直感よりもデータが役に立つ。
「全部読んでもらえると思うな」
「できる限り詳細に書くこと=親切」と多くの人が思い込んでいる。たしかに詳細な情報には価値がある。しかし、詳細であればあるほど、重要な要素が見えづらくなる。何より、読む労力は大きくなる。
検索ユーザーの立場から考えれば、たまたま訪れたページにおいて、一字一句読み込む可能性は低い。大半の人は、必要な部分だけをつまみ食いするだろう。僕自身、そうやってネットサーフィンをする。
そのため、つまみ食いがしやすいような記事構成にした。詳細を求めている人に対しては、リンクを貼ったり、記事の一番最後に詳細をまとめたり、部分的に隠しおいてクリックにより表示できるようにしたりと工夫をする。
「全部読んでもらえると思うな」
サルワカで解説記事を書くときには、常に自分にそう言い聞かせている。
使い回せるコンポーネントを用意する
サルワカでは、多様なパターンで解説を行う。ボタン、ボックス、見出し、テーブル、関連記事リンクなどだ。これらのコンポーネント(装飾パーツ)をショートコード等として登録し、使い回せるようにすることで、ライター間の表現のブレを小さくしている。
更新フローの整備
メディア公開後2ヶ月間ほどは、記事執筆後にライター間で「内容が十分に分かりやすいか」「表現や文体に違和感がなく、統一感があるか」といった観点でチェックし合うようにしていた。時間と手間はかかるが、お互いのフィードバックを通してはじめて気づくことはたくさんある。
サルワカはどのように成長したか
ここからは具体的にどのようにサルワカが成長してきたのか、その裏で何を考えてきたのか、振り返ってみようと思う。
淡々と記事を書く
はじめは、コンセプトを満たすような記事をひたすら書き続けた。そのテーマについて、どのブログやWebメディアよりも分かりやすく、ユーザーに親切な記事を書くように心がけた。
それでも、検索エンジンからの流入を狙っているため、しばらくはアクセス数が少ないのは織り込み済みだ。実際、その間のアクセスはほとんど個人Twitter経由だった。
このような期間が5ヶ月間ほど続いた。いつか上がってくると信じて、淡々と更新を続けた(結果として、半年以上かけて、狙っていたキーワードで検索順位が1位になった記事もたくさんあった)。
被リンクが必要だ
サイト公開後、記事数は増えていったが、検索順位はなかなか上がらなかった。評価されるまでに時間がかかるのは理解していたが、閲覧数が少なければ、更新のモチベーションを保つのは難しい。
感覚的ではあったが、サルワカに足りていないものは「被リンクの数」だと感じていた。サイト(ドメイン)自体が評価されていないのだ。
検索エンジンのアルゴリズムにおいて、(自然な)リンクの価値は依然として大きい。なぜなら、良い記事に対してリンクが貼られるのは、ウェブのごく自然なふるまいだからだ。
(ただし、リンクといっても、価値があるリンクと価値のないリンクがある。自サイトに向けて、自演リンクや相互リンクを貼っても、評価には繋がらない。むしろスパム判定されるリスクがある)
最も効率的に、短期間でナチュラルなリンクを貼ってもらう方法…、答えは1つしか思いつかなかった。バズることだ。
バズれば自然とリンクが貼られるようになる。話題になれば、中堅〜大手メディアに取り上げられて、価値の高いリンクが貼られるかもしれない。
そこで、多少なりともバズる方法を考えた。できればバズった後にも継続的に流入が見込めるページにできると良い。
例えば、以下のようなページをサルワカ上でリリースした。
おしゃれな配色を一覧でまとめた。気になった色を選ぶと、アプリのUI画面に色がすぐに反映されるというもの。
Windows、Mac、iOSの標準フォント一覧から使いたいものをドラッグするだけでfont-familyが完成するというもの。
画像を選ぶと、TwitterやFacebookなどでシェアされたときに、アイキャッチ(サムネイル画像)がどのように表示されるかをまとめてチェックすることができるというもの。
300万PV超えの人気WEBメディアはどうやって作られているのか
特集記事として、ランディングページのようなレイアウトで記事を公開した(とはいえ色々ともっと詳しく調査するべきだったと反省)。
本日のKindleセール本
AmazonのAPIからセール情報を取得して作った。Amazonの仕様変更についてくのが面倒になったので現在は非公開。
結果として、どれも狙っていた程度にはソーシャルメディアでシェアされることができた。このあたりから被リンクも少しずつ増え出した。
転機となった「力尽きたときのためのレシピ」
サルワカで最もバズった「力尽きたときのためのレシピ」は、会社の同僚との何気ない会話から生まれた。「家に帰った時には疲れすぎてて、料理が面倒なんだよね。力尽きたときこそ、あったかい手料理が食べたいのに」そんな会話だったと思う。
その話を聞いて、単純に「力尽きたときでも作れるくらいの超簡単なレシピ集があったら喜ぶ人は多いんじゃないか」と考えた。
巷の「簡単」を謳うレシピは、簡単ながらも結局食材を揃えるのが難しかったり、洗い物がたくさん出たり、本当に簡単ではなかったりする。
コンビニで買えるような食材を組み合わせたり、電子レンジでチンするだけで完成したりするような、本当に簡単なレシピ集があったら良いのではないか。ちょうどサルワカには、飲食店経験が長く、メニューの開発経験もあるライターがいた。
具体的なレシピ開発と記事執筆は彼女が、ページのデザインや記事構成は僕が担当した。
力尽き具合でレシピを探せるように、残りの体力をはじめに選んでもらう形式を取った。
「力尽きたときのためのレシピ」は公開後、一挙にTwitter上でシェアされた。リアルタイムアクセスは一時的に1500を超えた。「ねとらぼ」などの大手メディアやTV番組でも取り上げてもらえた。公開5ヶ月後には(レシピを作っていたライターが)本を出版することにもなった。
何より、Twitterユーザーの反響が嬉しかった。大変な仕事で毎日夜遅く帰ってくる会社員、休む間もないフリーランス、子育てで疲弊している主婦・主夫。本当に力尽きている人たちに、少しでも喜んでもらえたのがこれ以上なく嬉しかった。
サルワカのアクセス解析を見ると、1〜2時のような深夜でも力尽きたときのためのレシピを読みに来てくれる人がいる。そのグラフを見ると、何とも複雑な気持ちになる。このグラフの裏側には、身を削りながら、静かに日本を支えている人たちがいるのだ。
これは僕にとって忘れられない経験になった。
少しずつ検索エンジンで評価されるように
力尽きたときのレシピを公開してから、検索エンジンでの評価が徐々に上がっていった。時間が経つごとに、検索流入が増えていった。
特に目新しいことはしていない。より分かりやすい記事を書くことができるように、ユーザーの反応を見ながら、記事構成や表現をブラッシュアップしていった。
・・・
結果として、開設1年の時点で、サルワカは200万PV/月を達成した。
1年半の時点で260万PV/月を達成した。
ただし、ページビューは時の運でしかない。栄枯盛衰で「◯◯万PVを達成しました」と自慢すれば、次の年にはPV数が半減している。そんなものだ。
最近では、企業がべらぼうなリソースをつぎ込んで、高品質なオウンドメディアを運営するようになってきた。
もちろんやり方次第で勝機はあるだろうが、その分だけこちらもリソースを割かなければならないし、戦い方を工夫しなければならない。
それができなければ、検索順位とアクセス数は落ちていく。
検索流入に全く頼らずに、ファンを作ったり、ソーシャルメディアで拡散したりすることで人を集めているWebメディアも増えてきた。そのようなメディアのライターは検索順位のような面倒なことは考えていないため、より個性があり面白い文章を書く。自嘲的だが、インターネットを刺激的で面白いものにしているのは、そのようなメディアだと思っている。
これから
半年ほど前に転職をして、ようやく本業でもデザインやプログラミングに思う存分取り組めるようになった。日々学ぶことが多い。
サルワカで記事を書くことは、僕にとっては溜めてきた知識を吐き出すような作業だ。今はひたすら自分の作りたいものを作り、その過程で学びたいと思っている。一区切りついたら、サルワカで一挙に記事を書いていこうと思う。
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