ヤマタチバナとは
冬は、殆どの植物が葉を落とし、枯れ木、枯葉だけが目につく。枯れて何も活動していないように見えるが、その枯れて何もしていないような木の根や葉の付け根では、すでに新しい命を生み出すための活動が始まっているのだろう。そう思うと寂しい風景にも希望の灯りが期待できる。だがやはりこの季節は寂しい感じが強い。その中で唯一鮮やかなのが『ヤマタチバナ』の実だ。『やマタチバナ』というとなにか珍しい植物のように思えるが、どこの庭にでもある『ヤブコウジ』の古い呼び方なのだそうだ。
この雪の 消(け)遺(のこ)るときにいざ行かな
山たちばなの 実の光るも見む
と大伴家持が詠んだという歌が、万葉集に載っているそうだ。『ヤマタチバナ』は古い呼び方で、県内の山などでも見られる『ヤブコウジ』にあたる植物だという。秋の終わり頃に
実をつけ、お正月の飾りにも使われるそうだ。本当の『ヤブコウジ』『ヤマタチバナ』はどういうものなのか正確には分からないが、ふと目についた赤い実を見て、雪の残る山に分け入っても赤い実を見たいという気持ちが分かるような気がする。周囲には冬枯れの茶色の草しかない中に、小さな赤い実がどんなに鮮やかにかわいらしく見えることだろう。今はほとんどの家の庭に赤い実のなる木があり、それほど珍しくもない。小鳥はその赤い色に誘われてついばみ、あちこちに種を落として仲間を増やしている。だが今年は、それをついばむ小鳥もあまり来ない。冷たい空気にもめげず鮮やかに赤く輝く実は、小鳥でなくても目を引かれ、いとおしく感じる。
(H23.12.28)
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