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褒めること

 褒めることなど難しくないはずなのに、私にはそれができなかった。それは、相手を馬鹿にしているとか軽蔑しているからではない。褒めることは、そこに止まってしまうことのように思えたからだ。もっと上へ、もっと前へという気持ちが強かったからだ。だがそれは自分への言い訳に過ぎない。今思うと、相手にとっては褒められることが上へ前への力になるかもしれなかったのだ。その時々相手を思ってしていたことが、空しい思いだったのかもしれないと思うと、今までの努力、苦労が否定されたように思える。
  ある母親が新聞に投書していた。あるとき中1の長男が、50点満点のテストで49点を取った。ついつい「もうちょっと頑張ればよかったじゃない」と言ってしまった。すると高2の姉が「でも49点はすごいよ」と褒めた。長男は満面の笑みを見せた。マラソン大会で、長男は170人中129位だった。半分くらいには入るかなと思っていたので、少しがっかりしたが、表彰体験もある長女は、「女子は4kmだったけど、君は6.5kmでしょ。そんな長い距離を完走したのは我が家では君が初めてだよ。すごい。頑張ったね。」とまたしても長男から満面の笑みを引き出した。母親は、自分が心の狭い人間に思えて、恥ずかしかったという。
 長女に救われているせいか長男はとても優しく、次女からも友達の悪口は聞かれず、基本的に嫌いな人がいないそうだ。考えている母親に長女は、「人生をいつも楽しんでいるお母さんは、ある意味理想だよ」と言ったそうだ。母親は、この子たちが一人でこんな素晴らしい子に育ったと思っているのではないだろうか。そんなことはあり得ない。良くも悪くも子どもは親の影響を受けて育っていく。こんな素晴らしい3人の子どもを育てた母親は、素晴らしい人だと思う。羨ましい話だ。
                      (H21.12.11)

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