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   ところてんが

 あまりに重いことは、話すことも書くこともしたくない。2日過ぎてようやく書いてもいいような気持になった。
12月16日の朝、ちょっと手が空いたので、冷蔵庫の整理をした。いつかしなければ、と思ってはいたが、部分的には片付けていたものの全部には手がまわらなかった。始めるといい加減にはできない。一番上の棚から全部出し、棚をきれいに拭く。古くなったものやこれからも使いそうもないものは思い切って処分することにし、残りを棚に戻す。二段目三段目と整理するうちに、奥の方からところてんが出てきた。二つ一組になっていたもののうち一つを主人に食べさせ、残りを入れておいてそのままにしてしまったのだ。主人は、ところてんが好きだった。突然出してやって喜ぶ顔を見るのが、私の楽しみだった。一つ食べさせて、翌日また出してやってはあまり効果がないので、間をおいて食べさせるつもりで忘れてしまったのだ。慌ただしい入院、余命宣告と嵐のような日々に、ところてんはどこかへ置き去られてしまったのだ。
 ところてんを見ながら、あんなに好きだったのになぜもっと食べさせてやらなかったのかと、後悔の念でいっぱいだった。病院にいるときに持って行ってあげればよかった。だがあのときには、ところてんなど思いつかなかった。もし持って行ってあげたら、栄養とか満腹感には足しにはならないかもしれないが、一瞬だけでもおいしいと思って食べたのではないだろうか。その思いが胸の中いっぱいに広がって、苦しかった。今となってはどうすることもできない。味覚が異常になり、何を食べても「あまい」と言っていたので、ところてんも甘くておいしくなかったかもしれないが、食べさせてあげればよかった。

                     (H22.12.18)


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