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    雪  獄

 雪のことを思い出していたら、雪について書いてある文に気がついた。
     雪獄に たへて籠城沢内村
の一句が俳壇に投稿されたそうだ。沢内は岩手県内陸にある豪雪地区で、南部藩時代の『沢内風土記』には、家屋を埋めて降り積む雪を「天牢雪獄」と書いているそうだ。今は合併で西和賀町となったが、積雪が2mを超える地区もあるそうだ。近年は除雪の体制もよくなり、昔のような苦労はなくなったというが、家全体を包むほど積雪は「天牢雪獄」そのものだろう。
 雪を「天からの手紙」と言ったのは、雪氷学の研究者であった中谷宇吉郎。霜や霙(みぞれ)、ひょうと違って、雪は優しく、のどかで、穏やかな感じがする。だがそれは雪の少ない地域に住む人の感じ方かも知れない。屋根を押しつけ、戸の開け閉めにも支障をきたす雪、車を埋め通行不能にする雪、落雪、なだれ、それらの危険と向かい合っている地域では、死の危険にもさらされているのだ。「雪獄」というのは、その人達ならではの言葉だと思う。私は雪深い会津で育った。子どもの頃は、雪が降るのが楽しみだった。やわらかい雪の上にバタッと倒れて自分の形を付けたり、表面に渦巻きを描いて陣取りをしたりして遊んだものだった。寒い朝は雪の表面が凍るのでどこまでも歩いていくことができた。だが高校に通うようになると、雪のために通学に使っていたバスが止まってしまい、ひと冬に1週間くらいは高校までの道を歩かなければならなかった。4km以上もある道を朝5時に起きて歩いての通学はつらかった。それも雪獄の中に入るのかもしれないが、沢内村の雪に比べれば辛いとか大変とか言うのは申し訳ないような気がする。近年は道路もよくなり私たちの頃にけらべると、交通機関のマヒということはなくなったようだ。辛い日々も今は懐かしい重手になってしまった。沢内村は、いまはどうなっているのだろうか。
                   (H24.1.10)


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