男女差や個々を気持ちを受け入れている人:岡田さん②

結局私はその会社に一年半いたわけだけれど、習得するのに10年はかかると言われたのに一年半で辞めるということは
「雇った意味がない」と思われても仕方がないことだった。
主人の転勤がなければもしかしたらしばらくは働いたかもしれないが、転勤が決まったから結婚したようなものだったのでついていかないという選択肢はなく
結局はあっさり退職するのだけれど。

なのでよく思われていないだろうなと思っていたけれど、一人
「あぁ、いいじゃない。うん。君はそのほうがいいよ」と言ってくれた男性社員がいた。
それが、岡田さん。
私より20妻近く年上だったと思う。

その人はもちろん実力があって、でもいつも笑っていて、新人に教育するときは
「僕絶対こういうの向いていないと思うんだけどねー笑 教えるとかさ、いやだもん笑」なんて入社したての私たちに言ってしまうような人。
男らしい、という感じではなく、朗らかなおじさんという印象だった。

最初こそ「僕はね、奥さんに働いて欲しくないんだよ。僕が働けばいいし。奥さんには家と子供を守っていてほしいんだ」とさらっと言ってしまう人に
「えぇーーっっ!すっごい男尊女卑!!!私はこの人とは結婚できない!」
なんて思ったりもしていました。笑

その人は仕事が好きで、実力もあってみんながきっと信頼しているんだろうなという感じではあった。
人間味のある人で、熱血!というわけではなくふわふわとしたイメージだった。

新人研修の担当だったこともあり、話すことも増え
「最近どう?」とにこにこしながら話しかけてくれる。
自信がない、と伝えると「まぁこの仕事は向き不向きもあるからね、僕は向いていただけで」とあっさり。

「もう少し続ければきっと自信に繋がってやりがいも出てくる」と言ってくる上司が多い中
あっさりとこんなことを言ってくる岡田さんは、異色だったかもしれない。

まだ結婚なんて考えてなかった頃に岡田さんと雑談をしていて

「僕は娘と息子がいてね、息子には早く大きくなってもらいたいんだよ」
「お姉ちゃんの帰りが遅くなったりした時に迎えに行ったりしてもらいたいんだよね」
「僕が仕事でいけないときもあるだろうから」
「息子は男なんだからさ。」

まーた男尊女卑な発言してるー!と思いつつも、自分の中に不快感がないのはすこし気にはなっていた。
その正体がハッキリし始めたのは「自分本位な感情」で話してないからだと気づいたときだ。

男尊女卑を言ってくる男性は大抵、感情論で話をする人が多い。
全然論理的でなく、思い込みや自分の感情だけで物を言う人が多いと思っている。

岡田さんの男尊女卑は、全く「自分のため」ではなかった。
もちろん少しはあるかもしれないけど(家のことを奥さんにやってもらえていたら安心して働ける、など)
根本は「奥さんが大切」だからなんだとわかったのだ。

「だってさ、どうあがいたって女性は男性より力が弱いんだから。」
「立場だってそうでしょう。」
「妊娠出産するのも女性でしょう。」
「だって女の人って大変じゃない。」

言葉だけ読むと不快にも感じそうなのに、岡田さんの言葉は「事実」を岡田さんの感情抜きで話しているのがわかって
不思議と素直に聞けるようになった。

岡田さんにとって、女性とは「守るべき存在」であり、それが全ての根っこになっている。
実際問題、妊娠出産は女性にしかできないし生理やらホルモンバランスやらで振り回されている女性が多いのも事実で。
岡田さんは、「女性にしかできないことがあるんだから無理させたくない、男ができることは男がやればいい」と本気で思っている。

奥さんを大切に思っている。
妊娠出産育児が大変なこともわかっている。
女性は幾つになっても女性。
だから、息子には女性を守るのが当たり前だと育ってほしい。
そう育てられる息子さんの未来のお嫁さんはきっと幸せだと思った。

岡田さんは、自分を持っている人だ。
ブレない人だ。
「僕は」と必ず話す。
別に女性が働くことを否定しているわけではなく
でも「僕は」奥さんに家にいてほしい。
守り方は人それぞれだけど、岡田さんはその気持ちを受け入れてくれる女性を選んだんだと思う。

奥さんのおかげで、自分は楽しく仕事ができている。
岡田さんはきっと、それを奥さんに伝えている。
別に「働きたい女性」が正義というわけではない。今はいろんな選択肢がある時代。
専業主夫だって増えてきている。
「働きたくない女性」ではなく「働きたくない男性」だっているだろうし
妊娠出産したくない人だって、子育てしたくない人だっているし、それは決して「異端」ではない。
男性はこうあるべき、女性はこうあるべきというより「個々」が受け入れられ始めている、けれどまだまだ少数派なのも事実で。
そして子供をもつ夫婦なら、そこはすり合わせていかないといつかなにかが爆発するとも思う。

自分がどう思っているか。
それを相手に伝えているか。
相手を尊重しているか。
自分の気持ちも大切にしているか。
お互いが子供の親であるという自覚があるか。

この人は、多分そういうところが自分本意じゃないんだ。
典型的な男尊女卑とは違うんだ。
だから、働きたいタイプのはずの私も不快に思わないんだ。
奥さんを大切に思っていて、自分のこともよくわかっている。
あぁ、この人と結婚した奥さんはきっと、幸せなんじゃないだろうか。

そしていまだによく思い出す言葉。
「今はさ、女性が社会に出て働くのが当たり前じゃない。でも一昔前はさ、違ったわけじゃない。
男が外で働いて、女性は家を守って。
その仕事枠に女性が出てきていたらそりゃ仕事の枠は減るわけだよね。収入だって減るよね。
でもさ、収入が少ない男は結婚もできないわけじゃない。家族を養えないからさ。
どうやったって男は妊娠出産も出来ないわけだから、男が稼いだほうが合理的なんだよ。
優秀な女性も多いから、男性の収入も減ってさ、結果結婚しない若い子も多いじゃない。
それに女性はさ、頑張っちゃうじゃない。男が作ってきた社会なわけだからさ。
大変だと思うんだよね。
だから僕はね、女性は家を守っていた方がいいと思っちゃうんだよね」

それまでの私なら、この話を聞くと
「そんな決めつけよくない!」
「男尊女卑!」
「女性の気持ちを大切にしていない!」
なんて思っていたけど…
もし、親世代の男性みんなが、奥さんを大切にして、感謝して、大事にして
「僕が外で働けるのは君のおかげだ、本当にありがとう」って人ばかりだったら
世の女性たちはこんなに「男尊女卑!」と怒り叫んでいただろうか?
女だからってなめるな!男に負けたくない!なんてことになっただろうか。
別に岡田さんの意見が正解、ではなくて(男女問わず働きたい欲はある)
私は大切にされている、必要とされていると世の女性が感じていたら
こんなに好戦的に男尊女卑を叫ぶ人は少なかったんじゃないか。

不満を訴える人たちの根本には、承認欲求があると私は思っていて。

もちろん、働きたい人
自分のやりたいことを形にしたい人
それは男女問わずいて、それは当然尊重されるべきこと。男女関係ないし、いい時代になったと思っている。

男女問わず、パートナーを支える側に廻りたい人もいれば外で働くことより家を守りたい人もいる。
養われるのが嫌だとか対等でありたいと思う女性たちの中には、岡田さんみたいなことを言ってくれるパートナーなら
「私は彼に必要な存在なのだ」と受け入れて、家庭に入ることを望む人もたくさんいるように思う。
逆の性別でももちろんいい。
ただ単に、子供を望むのであれば
「妊娠出産がある女性の方が仕事だけに邁進できない期間があるのは事実」で。
(世がもっと、育児休暇を当然にしたりブランクが出世に響かないような体制を作り上げなければいけないとも思います)

ただただ合理的に考えたら
岡田さんが言ってることは、的を射ている。
実際、ホルモンバランスに振り回されながら、働き子育てするのはとでもとても大変で。
今のご時世、専業主夫の選択肢もあるのか、と世間が認知し始めているからこそ
これからもっと増えていくだろうなと。
妊娠出産はどうやっても変われないけれど、子育てなら変われる。
もし奥さんがどうしてもバリバリ働きないなら旦那さんが家庭に入ったっていいじゃないか。親なんだから。

だいぶ話が逸れてしまったけど、何が言いたいかというと
「パートナーを大切にしているか」
「パートナーとちゃんとチームを組めているか」
「パートナーのおかげで自分がここにいることをお互いちゃんと認識しているか」で
家族の結束は全然違うものになると思う。

岡田さんの話は、
「女性より男性の方が身体と強い傾向がある(性犯罪もほとんどは女性が被害者なのも事実)」
「女性は妊娠出産がありホルモンバランスにも振り回せてただでさえ大変」
という事実から「男の俺が守らなきゃ」の結果だとは思うけど
「僕はね」というところがとても大切で。

個々が違っていい。
それを相手に押し付けるのは良くないけれど、相手を大切に思っていれば、それが口だけでもなく独りよがりでもなければ
その夫婦はそれでいいのだ、ということ。

私は岡田さんに出会うまで
「女だからって家庭に篭らずずっと収入を得ていたい」と思い込んでいた。
兼業主婦の母を見ていたから。
一人暮らしで自活してるというプライドがあったから。
でも、パートナーが自分を認めてくれているのなら、そしてその時どうしてもやり遂げたい仕事があるとかでないのなら
妊娠、出産、子育てを仕事しながらでなく過ごせたことはとても幸せだと思った。
(妊娠出産が海外だったので結果そうなっただけではあるけれど)
働きながらじゃなくてもいい選択肢があったのは主人が外で働いていてくれたからだ。
その先ずっと働かないという気は私にはないけれど、「女性として」しんどい時に働かなくても生活出来る状況だったのは
主人が収入の面で家庭を守ってくれたから。
そして主人が自分軸で働けるのは
私が主人の子供を守っているから。

岡田さんのように、そのことをお互いが認識して一緒にいる夫婦は幸せなんだろうと思ったこと。
夫婦の形に正解はないけれど、お互いに感謝するのはきっと正解なんだろう、と痛感した。
我が家はまだまだなので、何度も喧嘩したし男尊女卑!と感じるシーンは多々あるけれど、
それでもずいぶん歩み寄ってきたと思う。

私の夫は岡田さんではないけれど、笑
岡田さんのように思ってもらえるようになったら私はもっと幸せな気がしている。
そして私も、会ったこともない岡田さんの奥さんのように
「夫に大切だと思ってもらえる女性」になりたいと思っている。

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