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振り返れば藤吉夏鈴がいる——櫻坂46『桜月』『Cool』

荒ぶる二期センター組

ビートルズでは、ジョージの曲になるとポールのベースが暴れまくるお約束みたいなものがあるが、『Something』『Taxman』といった楽曲はそれも込みで名曲だ。守屋・大園の新センターを迎えた『桜月』『Cool』では、1st〜4thの二期センター組が暴れまくる。特に『Cool』では主役を食うぐらいのインパクトを放つのだが、それが逆に大園センター曲を引き立たせる。バックスのメンバーたちも、出番は少ないがそれぞれキャラ付けされた裏設定がありそうな気配を感じさせる。

『桜月』『Cool』を繰り返して観るたびに、どんどん浮き立ってくるのは藤吉夏鈴だ。彼女は今作で、自分を魅せる戦い方を明確にしてきたのだろう。少し前の「さくみみ」で、小池が「ライブではいつ抜かれてもいいように意識ししている(のでカメラに抜かれるタイミングで準備することはしない)」というようなことを言ってた。その上で、ライブ映像では『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』の1サビ前のポーズや『ブルームーンキス』の歌詞にあわせた唇のアップのカットがフィーチャーされる。藤吉もカメラのために準備しないタイプだと思うが、この「その上で」が足りない部分だったのではないか。
『桜月』で印象的なのは、2番の大園・藤吉・山﨑のシーン。3人が顔を背ける仕草が三者三様でおもしろいのだが、若干テンポを遅らせて表現する藤吉に惹きつけられる。
『Cool』では、殻を破った大園が走り出し藤吉と合流する。トランスしはじめたフラフラした足取りから、さらにもう一人の憑依型大沼と合流し激しく飛び跳ねる。ここの藤吉がなんというか完璧なのだ。コマ送りでどの瞬間を切り取ってもベストショットになっている。そして、最後のトランスしきった森田とのギャップの激しさが大園の意識の流れとオーバーラップして最後のサビへ向かう。ここだけは藤吉・森田は大園を食ってしまってる……が、それこそが演出の意図したものだろう。振り返れば、藤吉夏鈴がいる。

『桜月』2'18"あたり
『Cool』3'18"あたり

1st・2ndでカップリングでセンターを務めたときは、たぶんまだ持って生まれた天性のもので主役を演じていた。3rdでエイト落ちしたとき、それでは成長できないことを知らしめられることになる。3rd BACKS LIVE!!で魅せた『Dead end』はそのセンター資質の集大成だったが、たぶん重要なのは、もうひとつのオリメンじゃない楽曲『無言の宇宙』のほうだろう。完全に憶測でしかないが、櫻坂ではじめて経験する3列目のポジションで、上述の「その上で」の戦い方に気づいたのではないか(『流れ弾』も3列目だけど、それは措く)。
表題曲選抜ボーダーラインにいる武元は、おそらくいち早くその戦い方をはじめていたように思う。それを活かすには13〜15人ぐらいの選抜人数はギリギリの数だろう。Video Music Awards Japan 2022の授賞式で『断絶』を披露してるのは櫻坂46は“個”を魅せるグループであることのメッセージとなりうる(もちろん菅井の衣装替えの時間稼ぎの意図もあったと思うが)。

「私たちは私たちらしく」のテーゼ

乃木坂・日向坂では、グループのカラーに染まっていくことが成長の方向性なのだろう。乃木坂の歩みはわからないけど、日向坂はアイドルグループとして拡大成長していくにつれ、個々の個性が平準化されている——小坂化しているといってもいい——ように思う。日向坂は、欅坂から派生したグループというより、乃木坂の正統な妹グループの道を選択した。アイドルグループとしてはそれは正しい。テレビサイズで観たとき、絵になるのは乃木坂・日向坂だ。同じ場で櫻坂を見るときの変なアンバランス感は何だろうといつも思う。もちろん、櫻坂の現在のグループの状態が非常にいい感じなのは、メンバー本人たちも度々口にするし、外側から見る私たちにも伝わってくる。
考える道筋の一つとなるのが、欅坂時代まで遡るが坂道AKB『誰のことを一番 愛してる?』だ。MV等を観ると、自己主張が激しいAKB・乃木坂勢に比べて、終始無表情で淡々と踊る欅坂勢とのギャップがすごい。歌詞に現れる“狂気”はどちらが表現できているだろう。欅共和国2017のアンコールで同楽曲が披露されたとき、比にならない“狂気”の表現に圧倒されるのである。他坂がグループとしての「らしさ」に収斂されていくのに対し、欅坂は楽曲に向かって集中していく。櫻坂は、当然欅坂の正統な後継者として、楽曲ファーストを貫きつつ、選抜制で人数を絞り「その上で」の“個”で戦いに挑む。
5thのアーティスト写真では、大きな桜の花びらの上で、バラバラの衣装を纏ったメンバーたちが舞う(4thのジャケット衣装は表題でなく全員曲の『僕のジレンマ』のものだったので、5thの衣装も全員曲用のものかと推測される)。『桜月』の衣装も基本形は同じだけど、各々のサイリウムカラーを配したカスタマイズ(靴まで違う)が施されている。他坂でも一人ひとり違うコーディネートのものはあるけど(『JOYFUL LOVE』のグラデーションとか)、『流れ弾』のメンバー×黒赤2パターンが象徴的だが、何を魅せていくかのコンセプトがまったく違う。

「私たちは私たちらしく」——。その思いは、2nd TOURを経て、メンバー全員により強く浸透してきた感がある。櫻坂は一人ひとりの「物語」を描き始めた。それが、藤吉夏鈴によって象徴的に表されている。
三期生ドキュメンタリーで、茜先生の「自分たちが追いついても、先輩たちはさらにその先に進んでいる」という言葉は、近い立場にいるからこそより実感できるものなのだろう。

『桜月』MVの解釈として、12人のメンバーは守屋の内面という解釈が正しいのだけど、守屋を通した12人の個別の物語と解釈したほうが想像が膨らむ。


『Cool』のMV公開までは、『桜月』での水色の衣装=菅井のサイリウムカラーであれば、『Cool』は“ザ・クール”の渡邉理佐の関連付けができるかと思っていたら、微塵もそんな部分はなくて、それはそれで嬉しい誤算だった。

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