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すべてのアイドルが嫉妬する舞台——櫻坂46『何度 LOVE SONGの歌詞を読み返しただろう』

「アイドル」としての初舞台

夜の教室に静止している少女たち。カメラが移動していくと、この教室はどうやら演劇かなにかの舞台装置であることが見えてくる。そして、ステージからはみ出したところにも少女が1人。彼女が舞台に上がり歌い出すと、照明が変わり1日の始まりとともに物語が動き出す。第一の観客は、もちろん私たちだ。
これまでのMVを通して、彼女たちはもうひとつの物語を生きている。『夏の近道』では何者でもなかった少女たちがアイドルへと成長していく過程であり、『静寂の暴力』はその前夜、孤独に耐える姿を描く。『マモリビト』はアイドルとなった彼女たちの決意表明だ。MVはないけど『Anthem Time』はいうまでもなく応援歌である。
『マモリビト』の背景は舞台裏みたいなところで、彼女たちはまだステージに立っていない。つまり、本作が彼女たちの初舞台なのだ。そこは「恋」を知ったトキメキと初めてスポットライトを浴びた高揚感が混じり合った二重の幸福に包まれた世界である。黒板消しを叩き合ってチョーク粉を散乱させて放り投げたり、机の上に乗ったり、夜の教室で踊ったり。現実の学校ではなかなかできないあれこれが羨ましいと感じるように、このMVを観たすべてのアイドルたちが嫉妬してしまうような舞台。でも、この物語は三期生11人だからこそ生まれる「奇跡」である。

第二の観客

ラスサビのところで、教室セットの前方=客席方向に椅子が並べられているのが見える。舞台の小道具の椅子と思われるので、客席=私たち観客というより、彼女たち自身の椅子と考えられる。第二の観客は、彼女たちだ。リアルの彼女たちが、舞台で自分の姿を観ている。この舞台と客席の関係は『油を注せ!』のモチーフにも通じる。武元センター曲ではリアルの自分側からの視点になっていて、ドキュメンタリー的またはメイキング的にアイドルやショーが生まれる過程を見せる。対して、この三期生曲では、客席側の彼女たちは描かれていないが、見えない部分の努力や葛藤が「奇跡」につながっていると気づかせてくれる。

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