欅坂と櫻坂がリンクする『五月雨よ』——櫻坂46/2nd TOUR 2022 "As You Know?"@東京ドーム
大園が読書をはじめると、背後に広がる夜景は、やがて鮮やかな木々の緑になり、雨音とともに柔らかいグリーンに変化していく。そして私たちもまた自然にライトを緑に切り替えていく……。大阪初日から緑に染まっていく様を見て、このように楽曲のカラーが決まっていくのだとちょっと感動。
『五月雨よ』は、2022年5月のJAPAN JAMでライブ初披露、その後渡邉理佐卒業コンサート、W-KEYAKI FESでパフォーマンスされたが、今回のツアーではじめて、この曲のカラーが緑であることが確立された。
読書の演出は渡邉理佐卒業コンサートを踏襲したものだが、このときは渡邉のペンライトカラーと雨のイメージから青系が多かったように思う。W-KEYAKI FESではあんまり統一感なかったように記憶している。今回の演出は、明確に緑に引き寄せている意図がある。“緑”とは否応なく「欅坂」を連想させるものであり、「欅坂」との対比を想起させる。
ツアーファイナルのティザー映像で「欅坂」と「櫻坂」の“FUSION”が提示されたが、「欅坂」と「櫻坂」が融合するとはどういうことか、両者は何が違うのかということのヒントがここに隠されていたように思う(というと考えすぎか)。
『五月雨よ』と『僕のジレンマ』は、『世界には愛しかない』と『二人セゾン』に対応する。
欅坂の『サイレントマジョリティー』『不協和音』や櫻坂の『Nobody's fault』『摩擦係数』が(こう並べるとこれらの楽曲もタイトルが対応してるような)、各グループのパブリックイメージならば、上記の楽曲はメンバーたちの心情を表現する日記や手紙みたいなものだろう。
「世界」と「永遠」は意味合いが違うけど、「世界」=「愛」であり、「永遠」=「愛」であるから、「世界=永遠」と強引に結びつけてみる。
菅井が卒業セレモニーで表現した「複雑でアンバランスなグループ」は、だからこそ彼女たち一人ひとりがそれぞれの色を放ち、全員が揃ってこその「永遠」があった。
しかし、愛に満ちた場所だと信じた「世界」は、かなりの割合で悪意が占めるものだった。数々のバッシングにさらされながら、彼女(たち)は戦い続けてきたのだった。LAST LIVEの最後で菅井が吐露した「永遠ってないのかな……」という思いは、私たちには計り知れない。
そんな彼女たちが、再び「永遠」を信じることにしたのだ。「複雑に見えたこの世界」は、やはり混沌そのものである。
「世界」はずっと存在していて悪意をもって干渉してくる。ときには流れ弾に撃たれたりもする。それでも、そこに「愛」があると信じ続ける。
3枚のシングルは、もう一度「世界=永遠」を信じるための——1stは自分自身へ、2ndは社会へ、3rdは他者への——態度表明ともいえる。そして、4thシングルで示されたのは、菅井の「強いグループとなって帰ってくる」の言葉そのもの。ようやく欅坂と同じ地平に帰ってきたことを静かに宣言している。
『五月雨よ』リリース当初は、そこまで思いが込められた楽曲ではなかったかもしれないけど、W-KEYAKI FES 2022の2日目、雨中のパフォーマンスで明らかに何かが変わった感じがしたのだった。
本公演前に菅井が何度も「櫻坂の未来が感じられるものになっている」と言っていたとおり、会場全体が“緑”に染まったときに「欅坂」を思い、これからはじまる彼女たち「櫻坂」の未来を想像するのだ。
東京ドーム2日間で彼女たちは何回「ありがとう」の言葉を口にしただろう。その胸の奥にあるのは自分たちが欅坂の地平に戻ってこられたことへの素直な感謝も含まれていたと思う。
実は、欅坂晩年で同じ思いが歌われている。
本曲と『砂塵』が正式にリリースされていたら違った未来があったかもしれないが、それはもう過去のことだ。アンコールでこの2曲が添えられることで、「欅坂」と「櫻坂」は地続きであり、かつそれぞれが違う魅力を持っていることを改めて知らされる。