見出し画像

まだ旅の途上——櫻坂46 3rd TOUR 2023@大阪2DAYS

藤吉夏鈴が生きる世界

暗いステージにうっすら黒+紺の衣装をまとったメンバーが配置につくのが見え、「来た!」と思った瞬間、暴力的な爆音ベースが耳をつんざく。さらに大歓声も加わり、ほとんどイントロが聴き取れない状態だった。
冒頭、MVと同じように藤吉が後ろに倒れ込むのを、ステージではメンバーが受け止め前に戻すのだが、その勢いがすごくて、スタンド席から見てて舞台から転げ落ちるかと思ったほど(配信では引いた絵になって見れなかったが)。この瞬間「この曲、想像以上にヤバいかも」と直感する。すでに数え切れないほど観まくったMVを脳内同時再生しながら、ステージに釘付けになる。
パフォーマンスで印象的だったのが、藤吉がステージから足を出して座り込む場面(たぶん1サビ前あたり)。

——『Start over!』いう楽曲の中で、力強く、自由に生きることが出来てすごく幸せでした。

という言葉が示すとおり、彼女(たち)にとって、楽曲の世界はもうひとつの「生きる」場所。ステージから足出してるところは、楽曲の世界から離れた素の藤吉がちょっと顔を出しているようだ。

虚構とリアルの狭間

本ツアーのコンセプトは、各楽曲を「Reload」「Activation」して、再構築・アップデートされたものを提示していく、ということだと思う。そして、ステージを囲んでいたフレームは、虚構としての楽曲の世界とリアルな彼女たちの世界を分割するものとして機能する。フレームを境界にして、メインステージがフィクションの世界、センターステージが現実の世界という感じだ。オープニングは、大園がリアルの世界から虚構の世界であるメインステージに(再)ロードされ、アクティベーションされるところから始まる。その後も、何度かセンターメンバーを召喚して楽曲がロードされるという流れが続く。そして、時折メインステージから飛び出して3D効果を演出するみたいな。
その中で、『Cool』以外に2曲例外があって、『Dead end』と『桜月』がセンターステージはじまり、つまりリアル世界からスタートする。『Dead end』は、三期生たちがメインステージに飛び込んでいくことで櫻坂46がさらにアップデートされることを表現している。
配信で見直すと、おもてなし会のときのガムシャラ感は、徐々に洗練されてきて、どう魅せるかのフェーズに入りつつある感じがする。毎回すごく考えて悩んで成長してるんだろうなと想像させる。それに呼応して『夏の近道』はカメラワークもかなり綿密にリハーサルされてる感じで制作側もめちゃくちゃ愛を注いでいるのが伝わってくる。

満開の桜が象徴するもの

スペシャルバージョンのBANの熱狂のあと、静かなSEとともにLAST SONGが告げられる。センターステージに守屋が現れると拍手が自然発生する。この拍手のあたたかさに妙にジーンとしてしまった。
彼女が歩く先には満開の桜。この桜こそ、可視化された虚構の世界、またアイドルとして生きる世界である。これまで、ライブのクライマックスでは桜を散らすのがお約束となっていたが、『桜月』の世界では(最初にチラチラ落ちるものの)決して散ることがない。ここは、時間が止まった、永遠の世界なのだ。でも、永遠はないことを彼女(たち)はもう知りすぎるほど知っている。曲の最後に顔を上げた守屋は、みんなから背中を押されるようにして、現実の世界へ戻っていく。
この数分に彼女たちのアイドル人生がぎゅっと詰め込まれているが、終わったわけではない。桜を散らせないことでフィナーレ感を出さず、まだ旅の途上というイメージを残したまま静かに終わる。

彼女たちの道はまだまだ続くのだ。虚構の世界でなく、リアルの世界で。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?