海辺の箱

「海辺の箱」
作猫舌だけど知覚過敏。
A男B女

がさごそと、部屋を物色する音がする。
窓の外からは、海の音がする。
A あったあった。
B 何?散々探してたのはそんな古くさい箱?
A そうだよ。わるいかよ
B もしや、タイムカプセル的な?何か入ってんの?
A 猫
B ふふっ。そんなわけない。冗談抜きに教えてよ。
A 冗談抜きに。声だって聞こえるよ。
B 嘘だ。聴かせて
A だめ。人見知りだから。
B そんな、シュレディンガーの猫みたいな話ある?
A シュレディンガー。確かに似てる。海辺の貝殻から海のさざ波が聞こえるように、この箱からは猫の声がするんだ。
B 開けれないの?中が観たい。
A 人見知りだって言ってるだろう?僕だってまだ観たことないのに。
B 観たことないの?
A こいつが嫌がってるのに、どうして無理矢理開けようと思うんだ。
B 本当にシュレディンガーだね。・・・待って、最後に声を聴いたのはいつ?
A 引っ越しの時に無くしてたから、かれこれ3年。
B 死んでないの?
A 生きてるよ。子供の頃からずっと、確かに猫の温かさや、しなやかさを感じるんだ。今も。
B 開けようとは、思わないんだ。
A いつか、出てきてくれる事を信じて、待つだけだよ。
B 私にはまだ、にわかに信じられない。
A ほら、耳を当ててごらん。
B ・・・いいの?
A いいって言ってる、気がする。君になら、心を開いてくれるかもしれない。
B 分かるの?
A 俺とこいつの仲だからな。
Bありがと。二人とも。
さざ波の音が耳に流れ込んでくる。
遠くから、にゃあと一声、猫の声が聞こえた。
ABの微笑んだような笑い声。

END

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