十人十シド・ヴィシャス
沖縄のステーキの店にて
パーテーションで区切られた遠くの席で女性とシド・ヴィシャスみたいな髪型の人が隣り合わせでめちゃくちゃ近い距離感でステーキを食べていた。
パーテーションがあるので頭しか見えないが、シドの方がベタ惚れって感じだ。
トイレに立った時、何気なくその2人を見るとそこにはドデケェ黒いファーのコートを纏った女性が1人でステーキを食べている姿があった。
シドの髪型と見間違えたのはこのドデケェファーだったのである。
12月とはいえ沖縄でドデケェファーの付いた真っ黒なコートを着て、そしてそのままステーキをかっ食らう…
この人の実体は銀座のフレンチレストランにあって、座標バグによってたまたまここに表示されてるだけなんじゃないだろうかと思わされるほどに、その姿は異質であった。
さて、兎にも角にも用を終え、席に戻るとちょうど注文していたステーキが運ばれてきた。
美味い。
2,800円というランチにしてはあまりにもレッドアイズブラックメタルドラゴンの攻撃力みたいな価格だがなるほど美味い。
沖縄の味を噛み締めながら、私は考えていた。
あのファーはまさに、文字通り彼女にとってのシド・ヴィシャスなのではないか。
彼女は彼女なりに「パンク」を着て歩いているのではないか。
常識がどうとか、気温がどうとか、ステーキの肉汁などが服についた時には食器洗い用洗剤でもみ洗いするのが1番ですよとか
そんな事はどうでもいいのだ、そのドデケェファーを着て歩くのが彼女にとってのパンクなのではないか。
黒川のこのロン毛だって、シド・ヴィシャスだ。
黒川にとってのパンク、短い方が社会には受け入れてもらいやすい、全てが円滑に進む事は承知の介の上でロン毛なのだ。
人はそれぞれにシドを身に纏って生きているのだ
それから私は沖縄の街を歩きながら様々なシドと出会った。
異常な量のお守りをバックミラーからぶら下げたタクシードライバー、あまりにも長すぎる鼻毛のタクシードライバー、女の子向けのアニソンだけを流し続けるタクシードライバー…
どれも間違いなくシドである。
そう考えるととても楽しい気持ちになってきた。
今年は、そして2025年は人それぞれのシドに目を向けていこう
そう誓った沖縄の旅であった。