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お洋服屋さんにナス姫とピーマン王子
※この写真のように隣にいても
ナス姫とピーマン王子はきっと恋愛をしません。でも・・・
違う世界に生まれた二人が、ひょんなことから出会い、
恋愛をしていくのも人間の世界ならあり得る、、、、
試着室での仕事が好きです。一歩入ると半分自宅のような感覚になるのか、お客さまの振る舞いは柔らかくなります。柔らかというのは心が緩み、その人にとっての普段通りになるということ。優しい人は優しく、奥さんに威張っている人は私たちにも威張る・・と言うように。
ここは冒険の場所。
みんな楽しく選ぶのよお~
気に入ったものをどんどん試して
見せあいっこして~
新しい自分を発見してちょうだ~い♪
そんな想いで頭を垂れてカーテンを閉めます。
行ってらっしゃいませ~!
実際にはお客様の変身した姿をじーっと見ている暇はありません。クルーザーの操縦士のような感じです。真剣に舵を握りながら時折後ろを振り向く。風を切って気持ちよさそうにする人の顔を確認して満足すると、すぐに風向きを確認するために姿勢を戻す。
おっと。
美女と野獣が入ってきました。
二人に挟まれて10歳くらいの女の子も一緒です。
雰囲気が素敵な方が訪れると、ついその方の全体像を見てしまう。
それは洋服屋だからというわけではないでしょう。
その日の旦那さんは(その日しか知らないけれど笑)よれよれのグレーのTシャツで恰幅のいい体を包んでいる。下は何年も経って生地が薄くグニャグニャになったチノパン。
とっても良いです。
洋服に無頓着というgood。
奥様は真っ白いブラウスにナスの花色のしっかりとした生地のフレアスカート。姿勢がいい。たまにふわふわと踊るような表現をする。バレーをしているのか指先をぴんと伸ばして美しい。
二人のストーリーが頭をよぎる。
美女と野獣は盛大な結婚式を催したのち、子どもを授かりました。裸で生まれてきた赤ん坊を見たときに、はち切れんばかりの生命力に驚き、この子はあるがままで育てようと美女は想いました。そして、
「衣装を脱いで一般の生活をしてみたい!着飾った洋服は私たちの幸せの条件にはならないわ。」
と言いました。それを聞いたプリンスも、はち切れそうな金のボタンを外し、立てた襟のジャケットを脱ぎ、三人でひっそりと郊外の住宅に住み始めたのです。
同じ衣装しか着たことのなかった野獣は何を選んだら良いのかわからないので、もう何年も同じ服を着ています。ベル、、おっと、美女は俗世界のチープなお洋服に心奪われるも、決してムダ使いはせず、おとぎの世界から出てきた名残で自然と調和する色を好みます。
娘の試着に付き合う二人の仲睦まじさは娘さんに充分伝わっているでしょう。旦那さんの、ニコニコしているとかじゃないんだけれど優しい顔。奥さまと娘さんへの愛情の深さは、たたずまいだけでわかります。
奥さまはとっても大事にしてくれる相手を見つけたんだなぁ。
そんなことを思いながらお洋服を畳んでいると、旦那さんがチラチラと私の方を見るようになりました。
お客様と目が合うのは大概お用事がある時。でもこの旦那さんは試着をしていないのでこちらからは声をかけませんでした。
しばらくして
奥さまが娘さんと他の洋服を選ぶために試着室から出て行きました。
その時
旦那さんは私の所にそっとよってきた。
そして言った。
恥ずかしそうに
「こちらにはお手洗いありますか」
・・・・・
あ~。
「はいございます。1度外に出ていただいて左にございます。」
「分かりました。」
旦那さんは奥さんが帰ってくると側に行き、
「ちょっと席を外すよ。」と小声で言ったようだった。
・・・・・・・・・・
す、
すてきだあ!
素敵な行動だった。
奥さまに、この奥ゆかしい旦那さんの気遣いを教えてあげたかった。
奥さまに直接トイレに行きたいと言って場所を探させない。その一瞬、家族の心をトイレに向かわせる。それをしないように、奥さんが離れたときに私にトイレの場所を聞いたところ。なんて順序建てた紳士な行動でしょう。
いや、
奥さんもそんな優しさはわかっているのだ。
「わかったわ。どちらかしら。」
と言っているようにきょろきょろする。そんな奥さんに旦那さんは
「大丈夫だよ。」
と言うようにさっと試着室を出ていった。
奥さんと娘さんの買い物を邪魔しないように振舞っている姿。
奥さんも旦那さんの優しさにあぐらをかかずに、大切に会話をしている。
年配の方でこのような夫婦はたまにいる。その度に素敵だなぁと思うけれど、そのご夫婦は、私よりもずっと年下だと思う。
ここはロードサイドの洋服屋さん。わさわさとワンマイルウエアで気楽に買い物をするお店。気取ったレストランではない。
場所を選ばずともにきちんとした振る舞いは人柄を確たるものにするし、どんな場所でもお互いへの気遣いをする優しさは内面から憂いを創り出す。
洋服は
人柄を隠せない。
小さな事なんだけれど
大きな違い。
この人は
王子さまだなと思った。
仕事中
美女と野獣が来店し
ほんのりと
心温め
一人微笑む