
海に立つ…
暁に染まる海に立ち
ゆらゆらと揺らぐ水面へ
一歩、また一歩と歩く
気付けば………

深海の奥深く水に包み込まれるその様は
まるで子宮にかえったように
温かな水は身に吸い付くように
この身体の細胞の奥深く染みていく
やがて、身体という意識も感じなくなる
僅かに残った意思は記憶と共にあの場所に。
僅かな意思は…
「もういいよ」
それだけだった。
そうして、その後
記憶は様々に混ざり合い粉々に散っていく。

すると、薄く霞かかる空間に入る。
あの透き通った白銀の大樹は
様々な記憶を有していた。
触れたら、どんな記憶に出会えるだろう。
ふいに呼ばれた気がして意識を向ければ
誰かの手が海から浜へ連れていく。
気付くと身体という意識が戻り、
朝日の照らす水面から出ていた。
「ハヤク、カエッテキテ」
この海から自分を引っ張ってきた誰かの声か、わからないが砂浜を歩き朝日に身体は
照らされていた。
軽いハミングと共に聴こえるこの歌は
誰の声かは知らないが、やけに懐かしい。
悲しくはないが、涙だけが流れていた。
─かえってきたくはなかった─
そんな思いは心の奥底に沈め隠して…。
「生きなさい」
そんな思いが身体中を、駆けめぐるのを
止めることなどできないから…。
