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静かな山に落ちた星は
静かな白樺の木々が茂る山があった。
その山の麓には村があり、人々が暮らしていた。
山には、その山に住まう生き物たちが
生きていた。
人々は時々、山に来ては山菜を採取したり、
白樺の木を少しだけ揃っては日々の糧に
変えていた。
その山には昔から狼がいた。村人は
狼たちと共生していた。
大切にし、時には話し合い暮らしていた。
大きな争いもない、平和な山に起きた
ある日突然の出来事だった。
ある星の美しい夜に、山が金色に光るのを
村人が見ていた。
村人は、発光を一晩中続ける山を見て
祈りながら、一夜を過ごした。
一方の山では、狼たちがある1つの場所を
ぐるりと囲み、見ていた。
そこには、大きな岩のようなものがあった。
更にそれは発光していた。
しばらくすると、その岩から浮かび上がる、
人型の影が見えてきた。
大きな岩と同じような大きな人型の影だった。
その影は、揺らめきながら次第にはっきりと
見えてくる。
狼たちは黙って見ている中、長とも見える
狼が1歩近づく。
長の狼は、影に向かって言う。
『お前は、誰だ?我らの山に何の用だ?』
その言葉に影は答える。
『ここは山なのか…。』
その影の言葉に長の狼は更に言う。
『わからないのか?』
その影は、姿をはっきりと表した。
夜の闇のように黒い髪に、どこまでも
深い深い蒼い瞳の男性の姿だった。
その瞳は、瞳が動くたび輝きを変える
瞳だった。
その者は、ゆっくりと話し出す。
『地点を定めたつもりが、上手く着地出来なかった。』
長の狼はそれを聞いて、悟ったように言う。
『そうか、ならばこの我らの山にいるといい。明日朝、夜が明けたら、村人に伝えないといけない。村人の前には姿を表してはいけない。この事は、我らの山にいる間は守ってもらう。
お前は、何か目的があって来ているのだろう。そのお前の瞳は、どこかで見たことのある瞳をしている…そうか、いつか…。』
と、言いかけて長の狼は口を閉ざした。
周りの狼たちに長は言う。
『聞いての通りだ。我らの山でしばらくいる者だ。』
そう言うと、長の狼に続くように狼たちは
帰って行った。
その大きな者は、溜息をつきながらまた
大きな岩の中に入っていった。
翌朝、村人たちが長の狼から事情を聞いた。
しかし、用心深い村人は、託宣の出来る
占者を呼び、見てもらってもいた。
結果は、『神である。祀るように。』
と出ていた。
村人のそんな様子をまた岩から溜息を
つきながら見ていたその者は呟く。
『神…か。』
やがて、立派な社が出来上がったあと、
禰宜や巫女が出入りするようになった
社の様子を本殿の上から、狼を撫でながら
見つめるその者の姿があった。
『来た目的とは違うが、見ていて飽きないな。退屈しのぎにはなる。そうだろう?』
と狼に話しかける。
『お前の言い方は少々…な。だが、
人はこうして生きているんだ。その祈りは
時に激しいものでもあるが…』
と、首を竦めながら狼は答えた。
そして、時が過ぎ…
今は…微かに狼の気配の残る社からは
時折、溜息と笑い声が聴こえる…。
★このお話は、フィクションです!★