作り話 ~季節巡り~拾壱
「知っている。ここも知っているのは
驚いたがな。」
あの者が樹の上から無表情に言う。
「気付けばここに居たのです。」
そう言うと、どこからかざわめく声が
聴こえてくる。
「月が近すぎる…。」
全ては聴き取れないが聴こえてくる。
月が近くとも構わないと何故か思い、
もたれかかる樹を見ると銀色に輝いている。
「共に駆けてやる。心配ない。」
安らぎの中のひとしずくの不安に
気付いたように聴こえるその声は
誰かもわからないが構わない。
「お前はいろんな声を聴くのだな…。」
あの者が樹の上で呟く。
「お前は、変わった人間なのだな。」
少し黙ったあと、答える。
「はい、それ故あの場所に居りましたが、
まだ他に理由はございます。」
「ここでは、言わなくても良い。」
と、あの者が言う。
「ここで眠りたい…ずっと前から知っているこの樹の傍で…」
そう呟くが早いか、次第に眠りに落ちていく。
自分とを繋ぐ人間は誰も居ないこの樹の傍に…
そう思っていると、近くに子どもたちが
寄ってきている。聞いたことのない言葉で
歌い、皆、白い衣を纏っている。
見ていると、目の前が真っ白になっていく。
気付けば、鳥居に戻っている。
狼が振り向きざまに言う。
「あの木…なんとも言えないだろう。
ヒトは立入らぬ………。」
狼の言葉は全身をかけ巡るように響く。
すると鳥居の上で軽く笑うあの者の声がする。
𑁍܀続く𑁍܀
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