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沙羅双樹の花の色 2

そのモノが石室に入る出来事が起こる
少し前の話。
あるひとりの娘が、そのモノを認知し、
言葉を交わすようになっていた。
その娘には、真逆の性質を持つ姉のような
存在の娘がいた。
しかし、上の娘はその集落を代表する家の
巫女として在った。
光…とでも言うのか、橙色のような光を
持つ娘だった。
娘は、そんな姉のような娘が好きだった。
娘が姉と呼ぶ娘は儀式の時には白色を
纏う者だった。
逆に下の娘は、闇とも光ともつかぬ
者で、見えぬものを見、聴こえぬものとも
話をしてしまうような娘だった。
そんな中で、下の娘は遊び場所を探し出した
時に出会ったモノと話をするようになっていた。
『あなたは誰ですか。』
目が合った時に娘はそのモノに声を掛けた。
そのモノは、人型を取りながらも
時折別の姿になっては娘との距離を
図っていた。
そのやりとりの様子を見ていた集落の
人間に事の次第を家の者に知らされて
しまった。
そのモノに力があると、今で言えば
神…とでも言うのか、そういう風に見た
娘の家の者は、集落の存亡の危機に
策を見出だせなかった為、これは好機と
喜んだ。
しかし、そのモノの力を使うには、
供物でもあり、依代ともなる犠牲が必要
だった。
人間側の勝手な都合で…。
さて、家の者は考えた。娘は今ではもう、
二人しかいない。
それまでにも、たくさんの娘がこの家で
暮らしていたが、時が経つごとに
減り、供物とされ、二人しか残らなかった。
上の娘の方は、集落を代表する巫女の為、
犠牲には決して出来なかった。
下の娘なら、犠牲となるに充分な者だった。
そうして、あの出来事が起こる。
娘は目隠しをされ、麻の衣装を纏い
石室近くまで歩いた。
娘の手には、短刀が握らされていた。
石室の前で白い糸を纏う者と向き合った娘は
そこで自らに動ける程度の深い傷をつける。
集落では、よくある出来事と知る娘は
当たり前のように受け入れ石室に入る。
そのモノの贄となるために。
しかし、集落の人間たちはそのモノとした
約束を忘れていった。
娘は、そのモノの依代ともなりながら、
緩やかに生を終えようとしていた。
約束を忘れられたそのモノは怒り、
そこを火で燃やし尽くしてしまった。
後には石室が残った。
しかし、知る者も何も無くなった
その場所に、娘の魂だけは残った。

悲しげな琵琶法師の声が
今にも降りださんとする曇天に響き、
悲しさを伝えようと琵琶の音が
誰かの心に沁みていく。

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