【スペシャルクロストークレポート】小安 美和さん × 浜田 敬子さん 人生に「Will」を持つ者同士の“連帯”の形としての家事代行
株式会社CaSyは5月26日(木)、キャストと呼んでいる同社の家事代行スタッフの日頃の活躍を讃え、感謝を伝えるための年に一度の恒例行事「キャストセッション2022」をオンライン開催しました。のべ580人のキャストが参加し、仲間たちと学びや交流を深め合いました。
特別プログラムとして、女性の雇用創出・リーダー育成・起業家支援等に取り組む株式会社 Will Lab 代表取締役 小安 美和(こやす・みわ)さん、元AERA編集長でジャーナリストの浜田 敬子(はまだ・けいこ)さんをゲストに迎えたクロストークを開催しました。
自宅の家事を他人にお願いする「罪悪感」も払拭された、ご自身たちの家事代行体験に始まり、キャストの仕事の意義、依頼者とキャストとの幸せなつながり方、そして未来に向けた心のあり方までに話が及んだクロストークの模様をレポートします。
モデレーターは、株式会社CaSy 取締役CHROの白坂ゆきが務めました。
登壇者プロフィール
小安 美和 氏
株式会社 Will Lab 代表取締役
ー プロフィール ー
日本経済新聞社入社。2005年株式会社リクルート入社。エイビーロードnet編集長、上海駐在などを経て、2013年株式会社リクルートジョブズ執行役員 経営統括室長 兼 経営企画部長。
2015年よりリクルートホールディングスにて「子育てしながら働きやすい世の中を共に創るiction!」プロジェクト推進事務局長。
2016年3月同社退社、6月 スイス IMD Strategies for Leadership(女性の戦略的リーダーシッププログラム)修了。2017年3月 株式会社Will Lab設立。岩手県釜石市、兵庫県豊岡市、朝来市などで女性の雇用創出、人材育成等に関するアドバイザーを務めるほか、企業の女性リーダー育成、ひとり親の就労支援、女性起業家支援等に取り組んでいる。
2019年8月より、内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員。
2021年2月より、W20デリゲート。
浜田 敬子 氏
ジャーナリスト/
前 Business Insider Japan 統括編集長/AERA元編集長
ー プロフィール ー
1989年に朝日新聞社に入社。前橋、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。
副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。
編集長時代はネットメディアとのコラボレーションや1号限り外部の人に編集長を担ってもらう「特別編集長号」など新機軸に挑戦。
2017年3月末で朝日新聞社退社し、世界12カ国で展開するアメリカの経済オンラインメディアBusiness Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」のコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティや働き方などについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』。
家事を依頼する罪悪感をどう払拭?家事代行利用のきっかけ。
CaSy 白坂ゆき(以下白坂):
まず、お二人が家事代行をお使いになったきっかけをお伺いしてもよろしいですか?
浜田 敬子さん(以下浜田さん):
子どもが15年前に生まれたとき、ベビーシッターさんに来ていただいたのがはじまりです。その後、離れていた実家の両親を近くに呼び寄せたのを機に、同じ方にお掃除をお願いするようになりました。
当時私も夫もとても忙しい職場にいて、休日は疲れ切ってしまっていました。家事だけでなく、保育園のお手伝いや行事などもあって、子供との時間が取れなかったんです。だから本当に助かっていました。まさに「やめられない」感覚。
当時所属していた編集部には、仕事の傍ら家事も育児も全部自分でやっているという後輩もいました。そこで「お金を払ってでも、自分のための時間を創ったほうが、長く健康に働けるよ」、とよく勧めていました。
小安 美和さん(以下小安さん):
初めて家事代行を使ったのは、10年くらい前だと思います。それまでは、私はすごく頑張って、自分で家事も育児も全部やっていたんです。当時ものすごく忙しく仕事をしていて、夜中も土日も働いていたのに、寝ないで掃除をしていたんです。
私をそうまでさせていたのは、母の「家のお掃除は女性の務め」という厳しい教えがあったから。それで私も必死でした。
そんな生活に「もう限界だ」と思ったとき、恐る恐る家事代行サービスを使ってみたんです。それからは、私もやめられなくなりました。
白坂:
現在はCaSyを利用してくださっているお二人ですが、最初に家事代行を使うのに、抵抗感や罪悪感はなかったでしょうか?
小安さん:
私はとにかく「家事というものは女性がやるものだ」という母からの先入観があったので、最初はものすごく罪悪感がありました。でもこれ以上自分でやると体を壊してしまう、と、本当に「ヘルプ!」という感じでお願いしたんです。
浜田さん:
私はシッターさんから入ったので、実は罪悪感がなかったんですよ。シッターさんなしでは、本当に仕事を続けることができなかったので。何より、担当の方がすごくよかった。
罪悪感よりむしろ、自分が苦手なお掃除をやってくれている「感謝」や、「やめられない」という気持ちのほうが大きかったですね。
家事代行を勧めた後輩の中には、「知らない人に家のことをお願いするのは夫が嫌がる」という人もいました。そんなとき私は「じゃあ夫にその分家事をやってもらってね」と必ず伝えていました(笑)。夫は家事をやりもせず、他人に任せるのも嫌、では働く女性たちが大変すぎます。そしてプロのクオリティは、なかなか自分では再現できません。得意な人に家のことをおまかせすることに、罪悪感を感じる必要はないと思います。
小安さん:
私は家事代行を依頼するときに、3つのハードルがあると思っています。1つは、私自身の心理的障壁。2つめは、夫など家族のハードル。他人が自宅に入ることを嫌がる人もいますから。自分では家事をやらないのにね(笑)。3つめは、どう依頼すればいいのかイメージがつかない、という依頼方法のハードルだと思います。
とりわけ1つめのハードルは大きく、越えにくいものですが、私の場合はある時期お願いしていたキャストさんが私にぴったり合っていて、お片付けについてたくさんの提案をしてくださり感動したことがありました。家の中が本当にきれいになって、「プロって素晴らしい」と思ってからは、抵抗感がなくなりました。
「時間」が手に入ると、「心の余裕」と「家族の平和」もついてくる!
白坂:
それらのハードルを超えた先で何が得られるのか、教えていただきたいです。お二人は、家事代行への依頼で、何を手に入れましたか。
浜田さん:
私は、なんと言っても「時間」。ただでさえ苦手なことを、週末にやらなくちゃと思うだけで気が重い。家全体の掃除機がけ、お風呂やトイレの水回り掃除...、2、3時間はかかりますよね。苦手なことを嫌々しなくて済むので、ストレスもなくなりました。
最初はみんな、「お金がもったいない」と言うんです。家事はやろうと思えば自分でもできますから。でも私は「絶対に惜しいとは思わなくなるから」と伝えています。時間が手に入るということは、気持ちの余裕が手に入るということ。週末にぽかっと自分の時間が空くので、コーヒーを飲んだり、散歩をしたり新聞をゆっくり読んだり。だからそれはコストではなく、自分のための投資だと言っています。ワーキングマザーって、本当に忙しい。時間が生まれることによる精神的な余裕は、家族の平和にも必ずつながります。
小安さん:
時間と、心の余裕と、家族の平和。本当にそうですね。家が散らかっていると、心も荒(すさ)むんです。家族と喧嘩になるんですよね!「どうしてこんなところにこれが置いてあるの?」とか(笑)。手に入ったものとして付け加えるならば、私は「片付けの知恵」。ものを捨てられなかったのですが、キャストさんにアドバイスをいただいてだいぶスッキリしましたから、「空間」も手に入れている!
浜田さん:
私も担当のキャストさんに、家主である私さえも知らなかった家の汚れを教えてもらっています。例えば排水溝のトラップが外れることを知らなかった。「こんなところにこんな汚れが溜まるんだ!」と、一度キャストさんの技を見せてもらうと、時間があるときに自分でもできるようになりますね。
あと、定期で同じキャストさんに来ていただくと、私の家の構造や生活リズムを把握してくださるようになる。すると最近は、どんどん気づいて提案をくださるんです。「この配送された水は片付けておいたほうがいいですか?」「窓も拭きましょうか?」「次来たときはここをきれいにしますね」と。それが最近すごく嬉しかったこと。
白坂:
実はCaSyには「ささやかな心遣いで、少し上の『ありがとう』」というキャストクレドがあります。その中には「見えないところも手を抜かず...」という一文が含まれています。お客様が気付かない部分であってもしっかり対応するのがCaSyのキャストさんです。ですがお二人は、「こんなところにこんな汚れが!」という発見と共に、キャストのはたらきに気づいてくださっていたのですね。
キャストが何を大切にしながらどんな動きをしているのかをよく見てくださり、喜んでくださっていることをとてもありがたく思いました。
「Must(しなければ)」ではなく、「Will(こうありたい)」で生きていく、そのための仕事や仲間。
白坂:
日々、サービスに励んでいるキャストさんに向けて、なにかエールをいただけると嬉しいです。
小安さん:
私が代表取締役を務める会社の名前は「Will Lab(ウィルラボ)」。自分はこうしたいと思う「ありたい姿」が「Will」。Willの反対語は「Must(〜しなければならない)」。日本人って、「Must」に縛られた方がすごく多いように思うんです。学校教育でも「Must」が頻繁で、私はそれがとても苦手な子どもだったんですよね。その割には、母からの「女性は家をきれいに整えておかねばならない」という「Must」に苦しんできた。
40歳を過ぎた頃から、「Will」で生きていきたいな、と思ったんです。そしてその「Will」で生きていく人を増やすためにはどうすればいいのか研究したいと思って、自分の会社に「Will Lab」と名付けました。
キャストのみなさんはどうでしょうか。ありたい姿に向けて生きていらっしゃいますか?
白坂:
会場のキャストさんに聞いてみましょう。Sさん、いかがでしょうか。
Sキャスト:
私は、キャストをしていなかったら「ありたい姿」に向けて邁進できていなかったと思います。キャストをしていたから、働くお母さんたちとつながることができて、世界が広がりました。毛嫌いしていたPTA活動にも立候補するほど自分が変わりましたし、「いつかお金を貯めて留学したい!」という先の目標も持てるようになりました。
小安さん:
すばらしいですね!「Will」を実現するためには、自分自身の仕事を持つことがとても大切だと思っています。仕事をしたら、「お金」と「自由」を手に入れることができる。それは、自分のありたい姿を実現するための「お金」と「自由」なんです。
浜田さん:
私の担当のキャストさんは、コロナでもともとやっていた仕事が減ってしまって、キャストを始められたと聞きました。本来やりたい仕事は違うものだけど、その「Will」のためのCaSyでもいいと思うんです。私自身も彼女にお願いして助けられているけれど、私がこのキャストさんにお仕事をお願いすることで、彼女の「Will」も助けていると思うと、支え合っているのかなと感じます。
私も助けられるし、彼女も助けられる。付かず離れずだけれど、お互いに思い合っている距離感も心地よい。家事代行の人は、単に家事をやってくださるだけの存在じゃなくて、家族ではないけれど外側にいる、緩やかにつながり合っている助け合う仲間。私はすごく、そんな感覚を持っています。
白坂:
キャストさんが持つ、「キャスト」としての顔以外の人生、そして「Will」を、お客様が支えて下さっている。そういった関係性・つながりの広がりを感じることができて、とても感銘を受けています。ここでキャストさんにも感想をお伺いしてみたいと思っています。
Oキャスト:
お二人のお話を伺って、すごく元気を頂き、今日参加してよかったな、と思っています。
私は◯◯ちゃんのお母さん、◯◯さんの奥さんとばかり言われながら、去年還暦を迎えました。「人生100年時代」と言われて、これからどうしようと思ったときに、「人の役に立つ仕事がしたい」と思うようになったんです。去年、お客様に「私はあなたがいないと生きていけない」と言われたことがあって、涙が出るほど嬉しかった。CaSyで働いてよかったと思いました。100歳まで働けるかはわからないけれど、「もういいよ」と言われるまでお世話になりたいと思います。
Uキャスト:
今日お二人のお話まで参加させていただいて、本当によかったです。お客様にたくさんのおみやげや、「休憩してね」とアイスをいただいたりしたことがあります。サービスだけの関係ではなく、人と人として互いに大切にし、つながっていく関係性について、あらためてお客様の立場であるお二人からお話いただけると、感動して涙が出てしまいます。お客様のお役に立てていることが、とても嬉しいです。
小安さん:
私も感動してしまいました。明確な「Will」があってCaSyにいらっしゃる方もいれば、なにがやりたいかわからないままにCaSyに所属している人もいると思いますが、それは全然大丈夫。今、私はその「Will」に向かう途中なんだ、と思いながら、目の前のことに一生懸命向き合えば、人と人とのつながりのなかで見えてくるものが必ずありますから。
逆に次は、キャストさんの想いをお客様側に伝える場を作るのはどうでしょう?
浜田さん:
すごくいいアイデアだと思います。キャストさんがこの仕事にこれだけ誇りを持って、プロフェッショナルとしてやってくださっているという想いや、「これだけ自立ができた」というエピソードを知るのは、頼む方も罪悪感がなくなるのではないでしょうか。
お客様とキャストの、「家族ではないけれどお互いに助け合う仲間」としてのつながりがもたらすもの。
白坂:
貴重なお話やアドバイスを、ありがとうございました。さて、最後に今回のクロストークのお題、「キャストが活躍すると社会がよくなる」についてお伺いできればと思います。
浜田さん:
女性が家事を手伝ってもらうことで働き続けることができる点もですが、キャストさんがこのお仕事で経済的に自立できる点もとても大切だと思います。自分の自由を得て、生き方の選択肢を広げることができます。
私が働き出したのは30年以上前なので、女性はまだまだお茶汲み・寿退社があたりまえだった。私の同級生はほとんどみんな、一度仕事を辞めています。
子どもの手がある程度離れてから働こうと思っても、自立できる仕事に就くことは難しいんです。その上離婚するとなると、みんな本当に生活に困っています。経済的に自立することが難しいから離婚ができない、という人もいます。
「自由」というのは、意に沿わない結婚から逃げられる、という意味でもある。子どもをちゃんと育てるということにもつながります。
それから、家族以外の人といかにゆるいつながりを持ち続けるかが、人の幸福感に関連する、と言われています。同じ場所で働く仲間や、地域の人たちなどがそれです。キャストさんとお客様も、そんなつながりのひとつですよね。
小安さん:
キャストのみなさんにとっての幸せ、お客様にとっての幸せ、両方が成り立つ仕事であるといいな、と思いながら聞いていました。キーワードは「つながり」なんでしょうね。「良質なつながり」。それがキャストさんによって紡がれていくと、お客様の幸福度も上がる。
一方で、対等な関係なのだから、お客様側に「どのようにしてキャストとつながりを作るか」という教育も必要ですよね。双方を教育できて、お互いがWin-Winになれる仕組みづくりを、CaSyさんにはとても期待しています。
浜田さん:
それから、CaSyで働いて楽しい、というキャストさんの声が聞けてとてもよかった。仕事を30年以上やってきて、もちろんつらいこともたくさんありました。それでも喜びもあったから、続けてくることができました。働くことが楽しい、という感覚をぜひ、キャストさんには持っていただきたいです。
小安さん:
キャストさんのお仕事は、働く女性や男性、何らかのご事情で自分では家事ができない人をサポートできる素晴らしいお仕事です。いろいろな悩みもあると思うのですが、ぜひ楽しんで働くことを続けていただきたいですね。仕事を楽しんでいる方が家に来てもらえたら、依頼する側としても嬉しい。ご自分のことを大切にしながら、頑張ってくださいね。
白坂:
互いに支え合い、感謝と敬意でキャストさんとお客様がつながり合える世界を創るために、CaSyとしての取り組みを進めていきたいと思います。お二人とも、今日はありがとうございました。
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