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本日。6

 隣に座った目つきの悪い女に好意を覚えるまで、大した時間は掛からなかった。

 センター街地下にある「焦熱」という名前の喫茶店では、日夜ろくでなしといった風貌の者たちが、何だか苦くて茶色い汁を啜りながら、これまた苦くて白い棒を口に加えてため息をついている。
かくいう俺も、この「焦熱」を数少ない喫煙可能な場所として日常の中においていた。

 そんな日常の中の、今日。
 最悪の人相をしたヒョロい女が、俺の隣の席に座った。到着したアイスコーヒーをイカれたスピードで飲み干しタバコに火をつけたかを思うと、徐に本を取り出した。


『伝奇集』


「マジかよ。」
気づけば声に出していた。
「……なんすか?」
俺が見ていたことを不審に思ったのか、オオカミ女が怪訝な顔をしていた。態度も悪い!! というか、不審に思ったからって知らん奴に話しかけることないだろ。
「いや、『伝奇集』読んでる人を実際に見たことが無かったのでびっくりしてして……。」
「あー、確かに見たことないかもですね。だからってそれで大声出すのはどうなんかって感じすけど。」

 このまま何回か罵倒された後、あまりに運命的だと思って俺は少し無理を言って連絡先を交換した。その寒気すら感じるオオカミのような顔に顔射してみたかったけれど、晩飯を食い終わる頃には音信不通になっていた。


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