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チンピラの礼賛

 この間「転職する」という話をここでした。
 そして転職が確実になったので当然それは、直属の上司とボスに伝えた。
 ここで言う「上司」は直属の上であり、「ボス」は事務所の一番えらい人だ。

 そのとき、末端社員のわたしなんぞにこんなところでネタにされたくねえよなあ、と思うような、見事なネタができた。

 まずは直属の上司に決意表明をした。
 転職を決めたこと、今の条件ではこのままここで働き続けられないことを伝えると、惜しみつつも理解を示してくれた。

 そしてその直属の上司から話を聞いたボスに呼び出され、詳細を聞かれた。
 転職を決めた経緯を伝えると、惜しみつつも理解を示してくれた。

 一見このふたりがやったことはまったく一緒だったんだけど、わたしには一個気になることがあった。
 ソファが対になっている部屋で向かい合って座り、話をした。
 そのとき上司はソファの背もたれに背を預け、股をおっぴろげて話を聞いてくれた。
 対してボスは、身を乗り出すようにしてわたしの顔を覗き込むように話を聞いてくれた。

 いや、みなまで言わんでも分かるよな?
 たしかにこんな平社員の転職話、きちんと聞くような話じゃないかもしれん。
 でも結論から言ってわたしはボスのほうがより多くのわたしが抱える事情を話してしまったように思う。
 それは、ボスの話を聞く姿勢から、聞こう、という意思がおびただしいほどにあふれていたからである。

 あのときのボスの「聞く姿勢」はマジで全身が耳だった。

 わたしは、上司に「一生ついていきます!」とは死んでも言わないが、正直ボスには「一生ついていきます!」と言うような映画開始5秒で死ぬチンピラになれる。
 今回だけのことではない、いつもボスはわたしの話を聞いてくれるのだ。

 ボスは、スピード感を持って仕事をし、無駄なことと必要なことをきちんと分け、残業を忌み嫌い、人の話を聞く人だ。
 わたしに限らずおそらく多くの同僚が、「この人はわたしの話を聞いてくれている」と感じている気がする。
 ボスは、ひとりひとりと対話する機会を大切にしている。

 前に某所で「こういうのは人と人のつながりだから」と言われたことがある。
 そのときは相手と状況がアレだっただけに「イラッ」ときてしまったが、その言葉自体はとてもよく分かる。実感している。

 わたしも、人の話を聞けるようになりたい。
 ああいうふうに、話し手に安心感を与えるような人になりたい。
 心の底からそう思った。

(この話はボスを礼賛する話であり、上司を貶める話ではない)

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宮崎笑子
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