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小説

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#20200328宮崎笑子

棘を知らぬは彼女だけ

棘を知らぬは彼女だけ

 コンビニのバイトは、ときどき迷惑な客が来て疲弊する以外は平和だ。
 そう、時々、意味の分からないクレームをつけてくるジジイとか、しょうもないことで騒ぐババアとか、無駄に凄んでくるおにいちゃんとか、日本語を理解しないおねえちゃんとか、商品棚の隙間を走り回るクソガキとか、スリルを求めて商品を懐に忍ばせる中学生とか、そういうのの対応をしなければならない以外は、平和だ。

「いらっしゃいませ~」

 で

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無神経なフリの牽制

無神経なフリの牽制

「あ、なんか今、猛烈にダッツのリッチミルク食べたいかも」

 時刻は二十三時を回ったところ。あたしのおなかが急にハーゲンダッツのリッチミルクを欲した。
 なので正直に宣言すると、ぼうっと深夜のテレビを見るわけでもなく眺めていた藤馬が、露骨にイヤそうな顔をしてとなりのあたしに顔を向けた。

「ないよ、そんなん」

 そんなこと、存じ上げておりますとも、はい。
 ソファの上でお尻をもぞもぞさせて藤馬に

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私の愛しの時計さん

私の愛しの時計さん

 コーヒーの香りで目が覚めた。くあ、とあくびをし、重たいまぶたを押し上げて、幾度かまばたきして閉じる。

「おはよう、お寝坊さん」
「どうして私が起きたって分かったの?」
「変なことを聞くね、きみは今あくびをした。エビデンスは以上だ」

 耳元にそっとおはようのキスをして、コーヒーの香りが近くなったのでおそらく片手にマグを握っているのだろう彼が言う。お寝坊さん、と。
 今何時だろう。と思ったけれど

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まあやのおもちゃ

まあやのおもちゃ

 俺の住むマンションの隣の部屋に住んでいる家族には、俺と同い年の一人娘がいる。その子とは小中と一緒で、奇遇なことに高校も一緒の、いわゆる幼馴染というやつだ。
 彼女は大きなくるっと丸い瞳に小さな人形のような鼻を持ち、唇はつやつやとしていて頬はうっすらと紅色に染まり、こげ茶色のつやのある髪の毛を肩下の長さで風になびかせている。なんていうか、可愛い。透明感があって清純な空気を醸し出す、その辺の街を歩け

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くちびるに赤

くちびるに赤

 生まれたときから一緒にいた幼馴染のあいつは、いつの間にか爪にマニキュアを塗ったり唇にテカテカしたコーティングをしたり、睫毛を伸ばしたり頬を人工のピンクに染めたりしている。
 短かった黒髪は肩の下まで伸びてゆるいカールを描き、動きやすいズボンばかりはいていた下半身を覆うのは目のやり場に困る丈のスカートになって、白くて細い脚をラインの入ったくるぶし丈のソックスで包んでいる。いや、くるぶし丈っていうの

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