監視カメラよりも鋭いベルリン地域ソサエティ

集合住宅の階段室を、最上階にある彼の部屋に向かってノシノシと上がってくると、「チョット!」と呼び止められた…2階に住む一度も顔を合わせたことがないし話もしたことがないオマ(おばあちゃん)だった。

「あんたの彼氏に用事があるから呼んで来てちょうだい」とオマ。

「ああ、あのオマはなんでも知ってるからね。」と彼。

…おばあちゃん、初めて会うのになんで私のこと知ってるの?しかも私が通るのを待っていたかのように呼び止められた…この家の建物の人とこの数ヶ月の間、3人くらいしか会ったことないのに…(しかもオマと世間話しそうな人たちでもない)。

ところでベルリンの街には監視カメラが「ほぼ」ない。BVG(ベルリン市交通局)の乗り物の中、Kotti(コットブッサートア駅、ベルリンで1、2を争う犯罪が多い駅…といっても大した数ではない)など大きな数駅、たまにお店の中にある以外、ほぼない。家の外に監視カメラでもつけようなら、近隣住民とアナーキストから物凄い抗議が来るだろう(デモは絶対にやるはず)。ベルリナーは監視に関してセンシティブだ。

ベルリンの建物の多くはアルトバウという古い造りで1900年前後に建てられたもの、そして割と新しいタイプの1950年〜60年代あたりの建物がメインである。アルトバウの方はVoderhaus(通りに面した建物)とHinterhaus(裏側の建物)に分かれていて、二つの建物の真ん中に吹き抜けになっているHofと呼ばれる中庭がある。このHofと呼ばれる吹き抜け、Voderhausの陰になってしまうHinterの明かり取りのためのシステムなのだけれど、窓を開けてちょこっと大きな声で話したものなら会話が筒抜け、そしてお互いの建物の住民の家が丸見え…というスパイ要らずの監視システムでもある。まさにパノプティコン。

同じ建物じゃなくても、ベルリンの建物は窓を大きく取っているゆえ、通りの向かい合わせの住居は丸見えである。特に一番上の階に住んでいたら、全部見渡せる…。向こうもこっちのことを見ているんだろうけど。

パリに長いこと住んでいた古い友人も以前「あんなに無関心を装っていてもね、あの人たちはちゃんと見ているのよ。そしてなんでも知っている。」と言っていた。これは建物レベル、建物の両隣レベル、そして近隣住民レベルという監視システムのバウムクーヘンでこの隣組のシステムはお互いのことを何気に把握するだけではなく、いざという時に助けてくれたりもする。こっちは知らなくても相手は知っていたりして、道で困っていた時にあんなにいつも無関心決めていたののに突然助けてくれて私がどこに住んでるかとか知ってたりするわけで…

私の住んで居る地域はベルリンでも大変有名な地域で、下町で人種のるつぼ。カルチャーといろいろな職種と社会層のカオス。アーティストからホームレス、ジャンキー、ディーラー、労働者までとにかくごじゃ混ぜ。みんなお節介で面倒見がよく、駅に辿り着くまでの5分の間、誰かに5人は顔を合わせ挨拶しなくてはいけない(これはプレンツラウアーベルグやモアビット、ミッテに住んで居る人に言うと驚かれる)。ということでいつも気を配ってくれてる仲間だけれど、それはいつもみんなに守られているだけではなく「見守られている」わけだ。緩やかだけれど確かな監視は監視カメラよりも鋭い。

カフェでいきなり私のテーブルに座ってきたおばちゃんに「どこに住んでるんですか?ご近所ですか?」と聞いたら「そう、もう40年もここに住んでるの」でも「この辺も昔はこじんまりしてたけど、最近は色んな人がいっぱい引っ越してきては2年周期で引っ越していくから知らない人がいっぱい歩いているし出入り激しいわよねー」と話していた。

そんな地域の目が大変厳しいからベルリナーはプライバシーに関して繊細なのかは知らないけど、彼氏の家に遊びに来だして数ヶ月、会ったこともないご近所さんから何故か笑顔で挨拶され、アパートの入り口のドアを開けてもらい、自転車をリフトしてもらった…むむむ、どうやらもう、私のことをみんなが知っているらしい…恐るべし地域共同体、ソリダリティ…




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