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焼き小籠包かマウルタッシェンか

年に数回、無性に餃子が食べたくなることがあるんだけれど、ここはベルリン、「ああ、今日は餃子が食べたいから、あそこの中華料理屋に食べに行こうか」ということが出来ない。残念。

同級生のキム君はいつも「ベルリンには約60軒もの韓国料理の店があるんだよ」と目を輝かせながら話してくれるんだけど、和食と中華となるとそうはいかない。一番近い中華料理店は中国大使館の横にある「◯◯酒家」みたいな店で、北京ダックとか出てくるようなところだ。一方、和食が食べられる最寄りの店もおにぎりやたこ焼きとかの店である。一応、郊外に定食や天丼を出してくれる店があるけど、餃子を頼んだら一皿1000円くらいする。こうなると、もう、自分で作るしかない。

今は夏。餃子といってもベルリンで売っているミニチュアの白菜も、形は同じど異常に固いキャベツもこの季節はあまり手に入らない。焼き小籠包を思い出して、生地を捏ね、鶏肉でスープを取ってゼラチン状にし、干し椎茸とエビ、豚肉とネギ、生姜で餡を作り、大切に使っている五香粉を混ぜて生地を伸ばして包んだ先から焼く。

焼いていると、玄関のベルが突然鳴り、ビールを抱えた近所の友人が遊びに来る。よくある夕食どきのベルリンの風景。早速焼けた第一弾を先にお客様とホストに振る舞い、キッチンで第二弾を焼く。

第二弾を持って行った時にホスト役が「中身は豚肉とエビだ」と説明する。手で掴んで丸ごと頬張りながら「うん、ドイツではない組み合わせだ」とお客は各々頷く。

第三弾を持って行った時に、その焼き小籠包がなぜか「マウルタッシェン」と呼ばれていることに気づく。お客全員が「マウルタッシェン」と言っている。え?なんで?

マウルタッシェンとはドイツ風のラビオリのこと。ロシアのペリメニとイタリアのラビオリの真ん中のようなもので、様相は、デカイ。スープに入っていたり、やっぱり焼かれていたり、さまざま。それにしても焼き小籠包のように中のスープがジュワッと出て来るような芸がない。焼き小籠包なのか、マウルタッシェンなのか、細かいことはまあいいか。

最後に焼いたマウルタッシェンこと焼き小籠包を私は箸で突っつく。これはベルリンで一大勢力のベトナム料理にも、韓国料理にも、たこ焼きを売る和食のインビスにもない味。私には懐かしい味で、手づかみ軍団は「初めての味覚」と次々パクパクとたまに中の汁を飛ばしながら食べている。焼き小籠包でもマウルタッシェンでもお互いビールを片手に喜んでパクパクやるならなんでも良し。

焼き小籠包を食べながら、今度は「シュウマイが食べたい」と脳みそが言う。うーん、それはちょっと難しいかもね。


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