見出し画像

ラーメン屋さん ~後悔~

幼少期、母方の祖父母の家が車で40分程度と比較的近く、よく遊びに行っていた
そして、夕方になると、食事前にお暇するのだ。

そうすると当然今度は、自分たちの食事は、いっさい用意していないわけだ。
そこで「外食して帰るか」となる

そこでよく使われていたのが、今回の話の舞台になる「ラーメン屋」だ

そこは、いかにも昔ながらのラーメン屋さん
中華料理と書かれた暖簾、スライド式のドアをガラガラと開けると、床は打ちっ放しのコンクリート、テーブル、丸椅子

丸椅子

赤い丸椅子はどれもこれもくたびれていて、少し破れていたり、座ると、少しカタカタしたりする

店の入り口のそばにはジャンプやサンデーなどの雑誌が置いてあるが、古い
去年のとかが平然と置いてあるのだ…

とりあえずその雑誌を手に取り、座る
そうするとおばちゃんが水を家族分持ってきてくれる
これも氷などは一切入っていない

こんな感じのコップ

コップにはサイダーやら何やらのロゴが付いていて、家では決して見ることのないコップだったのは、記憶に残っている…

「おい、何食べる?」
と父親に言われて、壁際のメニューを見る

物凄いのだ…。メニューが物凄く多いのだ

写真は某居酒屋さんのメニュー

「ラーメン」「チャーシュー麺」「ワンタン麺」「タンメン」「モヤシそば」などのいわゆる麺類に始まり
「チャーハン」「天津丼」「中華丼」「ライス」などのご飯物
「マーボー豆腐」「マーボーナス」「焼きビーフン」「餃子」「シウマイ」などの一品物
その他のサイドメニューとして「お新香」「なっと(原文ママ。納豆のこと)」「やっこ(冷や奴)」「大根おろし」等々
さらには各種定食、酒類と、とにかく色々貼り出されているのだ

「ラーメン!ラーメンがいい!」
そう言うと親父は笑って
「お前はいつもそれだな~。俺はなんにするかな…。俺もラーメンと餃子にするか。おい、母さんは何にする?」
「私はモヤシそばにするわ」

と、そんな会話が行われる

時間は夜の19時30分くらいだろうか、店の壁際に置いてあるテレビが野球中継を淡々と流している
「試合も4回、中盤に入って参りました。今シーズンも絶好調の……」

子ども心には
「あぁ、今日は土曜だったな…。まんが日本むかしばなし→クイズダービー→加トちゃんケンちゃんと見たかったんだけどなぁ…」
と、少しだけガッカリしながら、マンガを読む

…あれ…?これ、前に来たときにも読んだな…と、別の雑誌を持ってくる
別のやっぱりくたびれた雑誌。どうやらこれは読んだことがないらしい。中身は知らない話ばかりだ…

パラパラと適当に読んでいると、ラーメンが届く
ちょっと前まで小さな小鉢に分けてもらって食べていた自分からすると、なんと大きなドンブリ
これを独り占めして良いのだ…

ラーメンは、醤油と鶏ガラ、豚ガラか何かで味を調えた、いわゆるオーソドックスな醤油ラーメン
チャーシューにナルト、ネギ、海苔にゆで卵が半身、それにメンマが入っている。

メンマは自家製で、食紅でも使っているのか、やや赤味がかっている

……うまい………

家でも生麺を使ったラーメンは土曜日の昼などに出てきたが、そもそもが違う
同じ物でも、こんなに違うんだなぁ…などと思いながら、ひたすらに食べる

同じタイミングで親の分の注文品届いているので、モヤシそばを一口もらう
「あ!とろりとしてる!モヤシもシャキシャキだ!」
「餃子も、パリッと焼けていて、おいしいなぁ…」
などと、子ども心に評論家気分で楽しむ。

自分が必死で食べていると、親は横でタバコを吸い始める
今は分煙化の流れで店内では吸えないところが多いが、当時は許されていたのだ…

煙いな…。大人は何でこんな物が好きなんだろう?などと疑問を持ちながら、汁まで全て胃に流し込む

「ごちそうさーん」
と、親父は先に店を出て、母親が会計をする

「ここは、豚骨があれば良いんだけどな~。ま、こっちじゃ無理か。まぁ、今度は焼きビーフンにでもしてみるかな?それとも…」
と、店の外に出たところで九州出身の親父はぶつぶつ言っている…

会計を済ました母親と合流し、車で家路につく
「そう言えば、あの店はいつからやってるんだい?お前(母親の実家)の家もお気に入りで、結構出前取ったり、店に行ってるらしいじゃないか」
と、母親に尋ねる
「私が高校くらいの頃には出来てた店だから、結構古いんじゃない?」
「長くやってるんだな。まぁ、ハズレが無いから、やっていける理由はわかるよ」

そんな会話を聞きながら、家路に向かう車の後部座席で、食後の眠気に圧されながら帰って行く………

と、ここまでが子供時代の記憶



結局その店は、そこから10年、自分が高校時代までやっていたのだ…

いつしか足も遠のき、多種多様の飲食店が出来て、祖父母の家に寄ったあとの外食も各種飲食店への選択肢が出来て、滅多に行かなくなっていた…。

それと、中学の時に祖父が亡くなり、祖母はアグレッシブに我が家に遊びに来るタイプだったので、必然、足が遠のいていったのだ…。

と、その頃その店は、突如閉店した…
「借地だったみたいで、期間がきたから、実家に帰ったらしいよ」
と、祖父母と同居していた叔母は言っていた
「結構好きだったのに、ショックだわ~」
とも…

そこから10年後、社会人になって、一人暮らしを始めた自分は、暇つぶしのネットサーフィンで、その店の名前を思い出し、その店主さんの実家の地域名を入れてみた…

商工会のホームページに飛んで、そこには、見覚えのある店主さんの顔が、あった
「学校を卒業して、東京の○○という店で10年修行させていただき、暖簾分けをさせていただき、千葉で………」
と、プロフィールまで書いてある…
そう、いわゆる実家でも店をやっていたのだ…

よし!いつか行こう!車を飛ばせば1日がかりで、何とか日帰りできない距離じゃない。なんなら、1泊すれば良いじゃないか…!

そう思いながら、実行に移すことなく10年以上…
先日、ふと思い出して調べると、食べログのページが…
そこには「閉業」とだけ…

レビューには
「安くて美味しかったのだけど、店主さん高齢のためにお店を閉めるそうです」とだけ、最後に書かれていた…

自分がその気になっていれば、1度や2度は行くことが出来たであろうに、もったいないことをしてしまった…。

一期一会…とでも、言えばいいのだろうか…
なぜ俺は、1度も実行に移さなかったのだろうか…
1度でも行っていれば、今日の後悔は無かったであろうに…

そう思いながら、自分はブラウザを閉じた。

いいなと思ったら応援しよう!

ぶーにゃん
もし、気が向いたなら…