喫茶店 ~カランコロン~
あの時の歌は聴こえない…
まぁ、これは自分の耳ですね…
喫茶店
これも、今では懐かしい思い出
小学校の頃などだと、日曜日の朝などに母親がいわゆる自治会の活動などでいない日があったりする
その時に残されるのが、子供と、父親
父親は料理など作ることもしない人だったので、そうなると飢えに苦しむわけで
当時はまだコンビニも存在せずに、そうなると、必然何か食べるにはどこかに出かける必要がある
その時に世話になったのが、喫茶店
カランコロン…と、ドアを開けると風鈴の親戚みたいなのがドアに付いていて、音を鳴らす
店内は数人の客がいて、ある人はカウンター、ある人はテーブル席と、適当に座っている
自分も、親父に付いていき、適当なテーブルに座る
親父は出入り口の横に置いてある雑誌置き場から、スポーツ新聞を持ってくる
「なんか適当に食べようや」
親父は革製のメニューを開き、そんなことを言いながら、適当にページをめくる
「スパゲティでいいか…。お前も、それでいいな?」
と、俺に尋ねて、ウエイトレスさんを呼ぶ
「スパゲティを2つと、ブレンドコーヒー、あと、お前は、オレンジジュースにしようか?」
と、注文していく
そう、スパゲティなのだ
今だと「パスタ」という物で、色んな味が存在すると思われる
「ペペロンチーノ」に始まり「バジル」「たらこ」「明太子」「ナポリタン」「ボンゴレ」「カルボナーラ」…等々
当時は「スパゲティ」なのだ
今で言うナポリタンの事を「スパゲティ」と呼んでいた
来るまでの間、自分も雑誌を何か読もうとする…
「ジャンプ」「サンデー」などの週刊誌の他は、読めそうな物がない
仕方なく、ジャンプを手にして戻って、読めそうな物を探す
1話完結のギャグマンガとか、そういうのだけを適当に読む…
店内は子供心にはわからない歌やクラシック、ジャズなど適当に流れている
その何とも言えない空間の中で、スパゲティの到着をひたすらに待つ
親父が懐からタバコを取り出す…
「あ、ライター持ってくるの忘れたな…。ウエイトレスさん!マッチくれるかな?あと灰皿」
とウエイトレスさんを呼ぶ
「どうぞ」と、ガラス製の灰皿と、紙製のマッチを渡してくれる
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店名の書かれた紙マッチ
それを使って親父はタバコに火をつけ、一服を始める
一服が終わったタイミングで、スパゲティとオレンジジュースが届く
それと一緒に、タバスコと粉チーズも届く
親父は粉チーズを少しに、タバスコをそこそこの量かける
自分も見ていて、タバスコを使おうとすると
「辛くなるぞ~。止めとけ」と言われる
なら仕方ないと、粉チーズだけかけて、食べ出す
スパゲティは、今で言う「アルデンテ」など、どこの世界ですか?と言うくらいに「コシ」がなく柔らかい
具材はピーマンとベーコン、玉ねぎ。ただそれだけ
それをケチャップ味でまとめてあるのだ…
うん、美味い。家では出ることのない味だ
親父のタバスコ味が気になって、一口貰う
辛くて酸っぱい。これは厳しい。親父の言った意味が分かった
親父は
「だから言ったろ?」
と、笑いながら、新聞に目をやりながら、さらに食べ続ける
自分は、辛くなった口を洗い流すために、オレンジジュースを飲む…
オレンジを丸ごとミキサーにかけ、布で漉した感じのオレンジジュースは、やや酸っぱく、繊維質を若干感じる味
それが、辛くなった口を洗い流してくれる
親父のが先に食べ終わった頃合いで、コーヒーが届く
当時は何とも思わなかったが、食後に合わせてコーヒーを持って来るというのは、注文と客の食べ進み具合を見ないと、なかなか難しいだろうな…と、今になっては思う。
自分はスパゲティを必死で食べながら、親父がコーヒーを飲み終わる前に食べようと急ぐ
「さて…と、もう一服するから、ゆっくりでいいからな」
と、親父はまたタバコを吸い出す
自分も一安心で、ゆっくりスパゲティを食べる…
自分が食べ終わると、親父はまだコーヒーを飲みながら、のんびりとスポーツ新聞を読んでいる
暇なので、自分は喫茶店のメニューに目をやってみる
「ブレンド」「キリマンジャロ」「モカ」…等と、当時は訳の分からないコーヒーの名称がズラリと並んでいる
~軽食~
と書いてあるところには
「スパゲティ」「オムライス」「ピザトースト」「トーストセット(ブレンドコーヒー付き)」「サンドイッチ」「ハムエッグセット(トースト・ブレンドコーヒー付き)」などと並んでいる
ケーキ等も、ある
とは言え、ショートケーキにチーズケーキ、チョコレートケーキ位であるが…
後は、各種ジュースにミルク
そんな感じで眺めていると
「そろそろ行くか?」と、スポーツ新聞を読み終わった親父が言う
レジで会計を済ませ「カランコロン~」の音を背中に店を後にする
「たまにはいいな。こういう朝飯も」
と、親父は自分に向かって言う
笑って応えて、親父に付いていく
昭和の末期の、ある日曜日の思い出…
これも、最近Googleマップで調べた
あった!ボロボロになりながらも、あった!
そう思って拡大すると、何か張り紙が貼ってある
「月極駐輪場」と
ドアはそのままで、店の中身を空っぽにして、そのまま駐輪場に改造したらしい。
ドアの上の店名を表示したプラスチックのひさしの部分だけが、くたびれながらも、当時の姿を残している…
この店も、無くなっちまったか…
親父に喫茶店、全部なくなっちまったな…
自分は、湧き出てくる思い出と寂しさを残し、Googleマップのページを閉じた
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